大手行、シニアの働き方改革 自律的キャリア形成支援
2024.12.11 04:50
大手行でシニア社員の自律的なキャリア形成支援を充実させる動きが目立っている。人手不足を背景にシニア人材の専門性発揮が欠かせないため。一定の年齢に達すると給料が一律に下がる従来の人事制度を見直し、スキルに見合った処遇を提示できる体制を整え、新たな働き方を後押しする。
みずほフィナンシャルグループ(FG)は2024年度、55歳到達時に一律でポストと給与が下がる「専任職員制度」を廃止し、40~50代が対象の関連会社などへの斡旋出向も減らし公募制を導入。以前は約3割だった「社内で活躍したい」意向を示すベテラン社員が約7割に上昇したという。
ただ、これまでの経験や知識だけでは通用しないと危機意識を持つ社員も多い。同社が7月に導入した、社員の自発的な「学び」を金銭面で支援する制度は、50代以降の利用が3カ月間で1200件超に達した。
人材戦略推進部に勤務するキャリア助言者の富岡宏修ディレクター(60)は、50代で養成講座など計175時間学習し、国家資格キャリアコンサルタントを取得。57歳で社内公募による異動を果たし、これまでに社員約300人と面談した。「自分自身キャリアで悩んできたからこそ、人をサポートすることにやりがいを感じる」と話す。
より早期に社内外で通用するスキルに気付き、自発的な成長につなげる機会を提供する研修も出ている。三菱UFJ銀行は23年度、40歳行員向け研修「キャリアイニシアティブ」を創設した。行員が自身のキャリアを振り返り、強みや専門性を整理し、参加者同士のワークショップをメインに実施。参加者の9割超が「有益」という印象を持つなど好評なため、24年12月以降には30歳行員向けに同様の研修を順次開催する。
セカンドキャリアとして地方に注目するシニアも増えている。地域経済活性化支援機構が管理する、中小企業への転職を希望する大企業人材のプラットフォーム「レビキャリ」の登録者数は24年11月末で22年同比約4倍の3641人に上る。131人いる成約者の平均年齢は52歳。平均年収は600万~700万円だが、中小の中核人材として自身の経験や知識が生かされ、「大企業時代にはない手触り感を得た」(担当者)との声もあるという。メガバンクなど金融出身は、成約者の1割(20人)を占め「社長の右腕として活躍する人材が多い」(担当者)。
メガバンクでは新卒で大量採用した行員の中から、役員が選抜される〝出世競争〟の過程で「いかにパフォーマンスが優れ知見に富んだ人物でも、ピラミッド階段から外れた段階で、落伍者的な人事異動の取り扱いをされる傾向にあった。そのため、経験を積み知見を蓄えた従業員に対するリスペクトの欠如が生まれていた」(東洋大学の野崎浩成教授)との指摘もある。ただ、24年度の新卒採用数は10年前の14年度(一般職除く)比28%減の1521人となり、専門コースでの新卒・中途採用も拡充するなど、社員の能力の多様化が進んでいるのも確かだ。
もっとも、本人の意思にかかわらず40代後半から転籍・出向する慣例が長年続いた影響で「自身のキャリアを会社任せにする社員も少なくない」(大手行幹部)。範を示すシニアを増やすための成功事例の積み上げが欠かせない。