経営トップ必見! 長谷川勉教授の『信金・信組論』人的資本経営第3回

【番組内容テキスト表示(以下)】


~協同組織金融の人的資本経営~


『第3回 職員の能力と資質』


 


皆さんこんにちは。日本大学の長谷川と申します。


それでは第3回職員の能力と資質についてお話をしたいと思います。もちろんたくさん求められる能力はあります。ここではスキルに関する能力は割愛させていただきたいと思います。それに関しましては、日々いろいろな研修をしていると思いますし、例えばコンプライアンスの研修とか、それからセールストークに関する研修マナー研修、これらについては、私がここでお話しなくても十分座学あるいは動画等によって対応していると思います。ここでは全く違った観点から、第2回の将来像を踏まえまして、付加して、新しい求められる能力についてお話をしたいと思います。


まずですね、シートを見てもらいますと、物語を作れる職員、とても抽象的で曖昧な表現です。でも、実は皆さんもう既に、おそらく多くの方は買い物を通じて体験していると思います。商品を買うときに値段と品質以外で選ぶ。つまりストーリー付きの商品を買っている。


例えば、少し高くてもコーヒーを飲もうとしたときに、フェアトレード(公平・公正な貿易)な豆で輸入されたコーヒーを飲んでみよう。実は味が変わらなかったりするかもしれないのですけれども、ちょっと高くても買う。そうすると飲んだときに、フェアトレードなコーヒー飲むと味が違うわけですね。


そこにはもう物語が既についてしまっている。あるいは、スーパーマーケットでたくさんトマトが並んでいるなかで、地産地消のトマトでしかも作った方の写真が載っているとついつい手を出してしまう。もしかしたら美味しいトマトは他にあるかもしれないのになぜか自然と手に取ってしまう。


あるいは本屋さんで帯がついてるだけであっても十分なのにさらに、書店員のPOPが付いていたりして「これで泣きました」と書いてあると、ついその本を手に取ってしまうというふうに、私たちは気づかないうちにストーリー付きの商品を購入しているわけですね。


皆さん、なかなか売れないなと思っているかもしれませんが、信用金庫、信用組合も歴史というストーリーを持っているわけです。ところが歴史なんかちょっと重すぎてしまって、歴史を使っていろんなことするなんていうのはもう今は流行らないよと思われるかもしれないですけれども、消費者、顧客は、歴史ある金融機関を信頼しています。いくつかのデータからも見て取れるわけです。そういう意味では皆さんには、まだ使い切ってないストーリーをたくさん持っていると思います。


ここでは、そうした持っているストーリーについての話ではなくて、どうやれば新しいストーリーを職員が付加することができるか。非常に難しいところです。実はこれは研修で可能なのかどうか私も本当に疑問符を持っているわけでして、物語を作れる得意な職員の人とそうでない職員の人というのは、たぶん今の段階でもいると思います。


意識せず物語を作り出していて、作れた場合は顧客との関係は長く続いているし、物語が作れなかった場合、その顧客との関係は短命で終わる可能性もある。そういう意味ではこの段階では残念ながら、物語を作れる職員をどのように研修するかについてお話することはできないわけですけれども、ぜひその視点をまず持っていただきたいというふうに思っております。そういう意味では、私たち消費者としてはプロセスを重視しているという傾向が出てきているということに言い換えてもいいかもしれません。どうやって商品が作られるのか、どうやってサービスが作られるのか、ということに私たちは目線を当てていると言ってもよいのではないかと思います。


できたものだけに気になっているわけではなくて、できる過程を大切にする。そういう意味では信用金庫、信用組合はとてもいいポジションにいます。ただ、たくさんのプロセスを持っているわけですけれども、それをうまくアピールしたり、うまく消費者の方つまり顧客の方に物語るということに今まで注意してこなかったっていう嫌いがあるのではないかというふうに思っております。


という意味で、2つのマインドというものが、その物語の背後にあるのではないかと思っております。これも物語の1つになるのでないか。どうもの関連性が見づらいかもしれませんけれども、協同組織としてのミッションというものをもう一度考え直していただきたい。おそらくお題目になってしまっっていたり、金庫の中に深くしまってしまい、なかなか取り出せてこないかもしれませんけれども、ミッションで十分に収益を上げられるという観点からでも結構ですので、ミッションについてもう一度考え直していただきたい。それから2つ目ですが協同組織だからクリエイティブがなくても毎日同じことをやっていいというわけではなく、欧米とか北米の事例を研究しておりますけれども、どこを取っても実にクリエイティブで先進的な試みをしている協同組織の金融機関はたくさんあります。どちらかというと、株式会社の先を行って新しいサービスを生み出していく。そうしたことを促すような仕掛けこそが仕事を満足する職員を作り出せるのではないかというふうに考えております。さて、そうした仕事を満足するような職員、これからの職員に求められている能力はこの4つであると思います。かなり抽象的になりますが、具体的なお話をする時間がありましたら、別の機会にお話したいと思っていますけれども、この「何故」問う力ということ。言うのは簡単なのですけれども、実はあまり「何故」というマインドを持ってない方がかなりいらっしゃいます。


それは、教育だったり、地域だったり、家族だったりがこのなぜという「問う力」をどちらかというと押さえつけて、子供を育てて、大人まできてしまった。そのために社会で最も必要とされるのはなぜだろうという「問う力」なんですけども、そういう力を使わずに仕事をしてしまう簡単に今まではできたわけですね。皆さんの融資の方法を見ていれば、場合によっては保証協会付きであれば、さほど力がなくても、融資を実行することはできるわけですし、担保があれば融資を実行することはできるわけですよ。そうなりますと、「何故」という力を使う必要があるのかということだったわけです。ところがご存知の通り、アドバイスあるいはコンサルというふうな能力が求められる昨今において、ただ単にそうした表面的な研修をするだけではコンサルができるか、アドバイスができるかっていうとそういうわけにはいかないわけです。そこで、このマインドというものを育てていく必要がある。どちらかというと、コンサル系のスキル研修をする前に、どうやったらマインドを育てるかという研修の方が大切になってくる。その大きな部分を占めるのが、この「問う」というマインドでございます。2つ目の「想像」は少し置いておきまして、「組織化力」についてお話をしたいと思います。


「組織化力」は簡単に言いますと、人と人を繋げるということです。これも金融機関の仕事からすると、もうかなり端っこの方に置かれていたわけです。そして、人事評価のシステムにも人と人をつないだからといって、評価されるかというと、残念ながらそういうふうになってない金融機関がほとんどだと思います。ところが、取り組んでいるのはビジネスマッチングであったり、あるいは取引先を紹介するといったことが知らず知らずのうちにどんどん入り込んできているわけです。そうなりますと、何が大切になってくるかっていうと、もしかして融資という営業をする力よりも、どちらかというとネットワークを作る力、あるいは人と人を結びつけるような力が必要になってくるのではないか。そういう意味で、「組織化力」という言葉を挙げさせていただきました。


ぜひですね、そうした研修も必要ですし、そうした能力を持っている職員を評価する人事評価の仕組みも必要になってくるというふうに考えております。「対話」につきましてはお話した通りです。もちろんコミュニケーションの苦手な職員が増えたというお嘆きがあろうかと思います。その上に対話というものを乗っけていくことが大変だということもよくわかっております。これもまた別の研修で、実はコミュニケーション能力を上げるという研修もありますので、また別の機会にお話しできればと思っています。


この4つの力というのはもうマストになります。かつ今まで求められなかった力と言い換えてもいいかもしれません。その上で、「問う力」と「知を提供する能力」これが組み合わさったときに初めてスーパー営業マン・営業ウーマンで、内部では“良き管理者”になれるのではないかと思っています。(図の)頂点に、先ほどお話しましたような「問う力」、これはもうマインドですから誰でも持っています。「何故」といつもいろんなシーンで発することができるマインド。ですが、これだけだと少し中小企業に対峙したときには難しいので、やはり「企業を見る力」というのはどうしても求められる。そして最も基本的なのが、まさに学校の先生しか言いそうもないような「経済・金融の基礎リテラシー」で、簡単に言うと新聞を読みましょうとなってくるわけです。ところが、残念なことに信用金庫、信用組合において、新聞を読まなくても仕事ができたわけでず。長い間。かなり乱暴な言い方だと思いますけれども、先ほどの融資の仕方を話してもお分かりの通りだと思います。毎日、毎日ですね経済系の雑誌や新聞を読まなくても、話に困らなかったわけです。ところが、今の中小企業のお悩みの一番はお金の話ではなくて、どうやったら売上を上げるかということです。売上を上げるかということで、じゃあどうしたらいいのって聞かれたときには、この3つの力がどうしても必要になってくるわけです。


ですので、最近の職員の方で「話すネタがない」それから「お客さんと会っても間が持たない」あげくには「会員、組合員の方から苦情を言ってくる」「天気の話しかしない」というふうに。こうなりますと、何を求められているのか、付け焼刃的にというか、仕方がないのでといっておそらくパンフレットを持って行ったりとか、あるいは補助金の申請の相談をしたりというふうに、それなりの武器を持たせるわけなのですけれども基本は何かっていうと、話せなきゃいけないわけです。その隙間の話すことに事欠いているというのは、この3つがもちろんあれば完璧なのですけれども、”なぜなぜ力”を一番に考えて、次にできる限り、経済的な情報を行く前に仕込んでいく。そうすると話が10分でも20分でもすることができて、その上で補助金の話であったりあるいは売上の相談をというふうになってくると思います。という意味では、ぜひそのマインドですから、能力研修とは違いまして、マインドを鍛えていただきたいというふうに思っております。


次回、第4回は「人的資本経営の開示の在り方」についてお話ししたいと思います。


 


scroll

スタートアップインタビュー⑤ 207

スタートアップインタビューでは、先進的な取り組みで様々な社会課題を解決するスタートアップ企業の取り組みを紹介します。今回は、プレミアム記事シリーズ「潜入!SU最前線~Revival of Japan~」でも紹介した207のインタビューを収録。


【207】
物流のラストワンマイル領域にフォーカスする207は、配送効率化に関わる様々なデータを蓄積・活用して荷主から配達員、消費者までをつなぐ事業を展開。個人の配送事業者向けには「トドクサポーター」、中小の物流会社向けには「トドククラウド」、物流ネットワーク全体の効率化には「トドク便」の各種サービスを提供している。2018年に設立した同社の取り組みについて、高柳慎也CEOに聞きました。


 

scroll

スタートアップインタビュー④ SWAT Mobility Japan

スタートアップインタビューでは、先進的な取り組みで様々な社会課題を解決するスタートアップ企業の取り組みを紹介します。今回は、プレミアム記事シリーズ「潜入!SU最前線~Revival of Japan~」でも紹介したSWAT Mobility Japanのインタビューを収録。


【SWAT Mobility Japan】
2015年にシンガポールで事業を開始したSWAT Mobilityは、最小車両台数で複数の乗客を効率良く相乗りさせる高精度のルーティングアルゴリズムを用いて世界7カ国でオンデマンド交通運行システムや路線バス乗降データ分析システム、物流向け配送最適化システムを展開。日本には2020年に進出し、自治体、乗合バス・タクシーなど交通事業者、物流企業との連携を拡大しています。日本での事業展開について、日本法人の末廣将志代表取締役に聞きました。


 

scroll

Column


プレミアム記事