金融庁、トータルリターンスワップ取引に忠告、次の照準は安定配当商品 仕組み貸出増加も警戒

2024.03.21 04:50
金融庁 投信 有価証券運用
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「金融庁、トータルリターンスワップ取引に忠告 次の照準は安定配当商品 仕組み貸出増加も警戒」ニュースの要約

・金融庁はトータル・リターン・スワップ(TRS)など安定配当を得られる複雑な金融商品への投資に忠告

・地域金融機関が保有するTRSを組み込んだ私募投資信託に対し、元本割れリスクの管理徹底を要求

・TRSは原資産のリターンを固定金利と交換する取引で、金融機関に安定的収入を提供

・金融庁は3月中旬に地域銀行団体へリスク管理の考え方を示し、一定数がTRS投資していることを確認

金融庁は、安定配当を得られる複雑な金融商品に投資する地域金融機関に忠告を発している。有価証券運用で「トータル・リターン・スワップ(TRS)」と呼ばれる取引を組み込んだ私募投資信託を保有するケースを確認しており、原資産である株式などの元本割れリスクの管理を徹底するよう求めている。リスク許容度に応じた運用先の選定を促す。


3月中旬に地域銀行の業界団体に考え方を示した。資産運用会社などへの聞き取りで、一定数の地域金融機関がTRSの組み込まれた商品に投資している実態を確認。幹部は「リスクを正確に認識しないまま残高を積み上げている事例があるかもしれない」と話す。


TRSは、原資産の価格変動による利益や配当金など全てのリターンを、事前に決めた金利と交換する取引。金融機関は安定的な収入を受け取れるため、資金利益を積み上げやすい。外貨建て商品に投資する場合に外貨流動性リスクを直接的に追う必要がない点も魅力となっている。


その一方で、同庁は原資産の元本割れを警戒。安定的な収益を得られても、資産価値が下落すれば将来の損失が累積する。地域銀行が保有する商品は株式へ投資しているケースが多く、相場が急変する局面で機動的に動ける態勢確保を求める。


TRS商品を通じた株式投資が信用リスク・アセットの圧縮につながらない点も強調。同庁は2023年12月に、バーゼル3の適用に合わせて自己資本比率規制に関する告示を改正。TRS取引で実質的に株式のリスクを負う場合はリスクウェートを想定元本額の100%で計算する必要があると明確化した。


同庁は、国債を保有するSPC(特別目的会社)などに融資する「仕組み貸出」の増加も警戒。時価評価の必要がない一方、複雑なオプションが付与されるケースが多いため、十分なリスク管理を求めている。今後も、モニタリングで複雑な商品への投資が広がっていると判断した場合は警鐘を鳴らす意向だ。


ニッキンオンライン編集デスクの目

トータル・リターン・スワップ(TRS)を組み込んだ私募投資信託は、表面上は安定的な分配金が得られる商品設計となっているが、原資産の価格下落時には損失が内部で累積する「負の含み損」のリスクを内包している。


2008年のリーマンショック時には、複雑な仕組み債への投資で多額の損失を計上した金融機関が続出 した。また、長引く低金利環境によって収益確保を急ぐ金融機関がリスクの高い商品に傾斜する傾向が強まった。


また、2016年 のマイナス金利政策導入以降、地域金融機関では従来の国債運用中心のポートフォリオでは収益確保が困難となり、複雑な金融商品への投資シフトが進んだ。


地域金融機関の有価証券残高は右肩上がりで、2023年には約72兆円 に達している。運用の健全性は、地域金融システムの安定性に直結する重要な問題だ。特に人口減少が進む地方では預貸業務の縮小による有価証券運用への依存度が高まっており、運用の高度化と適切なリスク管理の両立が求められている。


TRS商品に対する100%のリスクウェート適用は、実質的なリスクに応じた自己資本規制の強化を意図したものだ。SPCを活用した仕組み貸出はオフバランス取引によるリスク移転の手法として注目されているが、最終的なリスクの所在が不透明になりやすい。


金融庁の監督指針強化は単なる規制強化ではなく、金融機関の持続可能なビジネスモデル構築を促すといった趣旨もあるだろう。


 


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