転換期の有価証券運用 第3回 含み損拡大が促す決断

2023.12.04 04:40
有価証券運用 転換期の有価証券運用
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【今回の筆者は日本資産運用基盤グループ・ディレクターの白瀧 俊之氏】


第1回第2回の連載において、地域銀行における有価証券運用事業の重要性、そして、重要性が増す中での国内金利上昇という転換期を迎えつつある有価証券運用事業に対する課題を確認しました。本稿においては、直近の決算状況を踏まえ、金融庁や日本銀行をはじめとする外部モニタリング機関の目線を読み解いていきます。


有価証券運用に対する当局の目線


まず、足もとの決算状況に目を向けますと、11月14日に上場している地域銀行89行の2023年度第2四半期決算(9月末)が出そろい、およそ6割に当たる55行が当期利益の減少になりました。国内金利の上昇を背景に保有している国内債券の含み損の拡大(前年同期比120%増)でほぼ説明可能な内容となり、7月の日本銀行によるイールドカーブ・コントロールの柔軟化による影響が色濃く出た格好となりました。第2回でも触れましたが、現状2024年にマイナス金利政策の解除が見込まれる中、保有債券の含み損拡大懸念を経営によるリスク資本配賦戦略および有価証券運用ポートフォリオの中でどのように位置づけていくかを決断する重要な分水嶺に差しかかっていることを再認識する必要があります。なお、その他有価証券の含み損も引き続き高止まりしており、この改善が今後の運用効率の高低を決める一因であるともいえます。


 


では、金融庁や日本銀行をはじめとする外部モニタリング機関は地域銀行の現状をどのように見ているのでしょうか?金融庁は9月8日に「地域銀行有価証券運用モニタリングレポート」を、日本銀行は10月20日に金融システムレポート2023年10月号をそれぞれ公表し、問題意識を提起しています。


金融庁・日銀、トータルリターン管理を暗示


金融庁は2018年7月に「地域銀行有価証券運用モニタリング 中間とりまとめ」を公表して以降、一貫して経営体力を上回る過大なリスクテイクに対する警鐘を鳴らし続けています。その中で、含み損に関しては、「市場環境次第で発生が不可避であり、その処理を先送りすることが適切な場合もある」と一定の理解を示しつつも、収益性の低い運用資金の固定化、将来の期間収益減少、運用効率の悪化を先送りすることによる副作用として掲げています。


そして、直近9月のレポートでは、上記に加え、①単年度の財務収益期待が先行し、中長期的に目指すべき「望ましいポートフォリオ構成」や、リスクとリターンの両面に関する議論不足、②既に生じているその他有価証券の含み損の影響に対する勘案の不十分さ、③市場環境が大きく変化する中、経済価値・期間損益の両面を意識したリスクコントロールの未実施などに対する懸念を示しています。


これらを要約すれば、トータルリターン(総合収益)での運用評価に基づいたポートフォリオ運用の必要性を暗示していると解釈できるのではないでしょうか。同様に、リスクテイクの尺度に関しても、「経営理念、経営体力(資本および収益)、リスク管理態勢を踏まえた上で各行により最適なリスクガバナンスを基に設定されることが望ましい」としており、リスク許容度の明確化を求めています。リスク許容度はまさにポートフォリオのトータルリターンの標準偏差と言い換えることができます。


さらに補足しますと、9月のレポートでは、金融システム全体の安定性を維持する観点からリスクテイク規模の大きい20行程度を対象に経営体力である自己資本と期間収益であるコア業務純益対比の評価損益の推移を例示しています。


日本銀行も金融システムレポートで同様の評価尺度を使用しており、前者を「損失吸収率」、後者を「益出し余力」と呼んでいます。



益出し余力は、有価証券の評価損益をコア業務純益(投信解約損益を除く、過去 3 年平均)で割って算出します。ある一時点における断面にすぎませんが、過去3年間など一定の期間収益を設定することにより、「評価損益利回り」と類似したものとなり、評価損益利回りの目標水準とも解釈できます。他方、損失吸収率は、ストレステストや市場急変時のアクションプランで算出されるポートフォリオのドローダウン(最大累積損失率)の同義語として解釈でき、ドローダウン発生時における自己資本への影響で健全性を評価するものと理解できます。


つまり、資金運用収益である有価証券利息配当金を重視することに理解を示しつつ、有価証券ポートフォリオを中長期的な観点から「有価証券利回り(※1)」と「売買損益利回り(※2)」、「評価損益利回り(※3)」を合算したトータルリターンを基に運用評価し、トータルリターンの標準偏差およびドローダウンによるリスク管理を行うことで効率的なモニタリングが可能となるとの当局の意図が見え隠れしている点には留意する必要があると思われます。


◇ 関連用語 ◇
※1 有価証券運用利回り=(有価証券利息配当金-投信解約損益)÷有価証券残高(平残)
※2 売買損益利回り=(国債等関係損益+株式等関係損益+投信解約益)÷有価証券残高(平残)
※3 評価損益利回り=評価損益の増減÷有価証券残高(平残)


◇ 過去の連載 ◇


第1回 膨らむ地域銀の円債リスク


第2回 迫る環境変化に備えを


 


 

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