日銀・田村委員 2%目標実現「前倒しの可能性」 追加利上げ姿勢維持
2025.10.16 12:25
日本銀行の田村直樹審議委員は10月16日、国内の経済・物価情勢に関し、「『2%物価安定目標』の実現時期が前倒しとなる可能性も十分にある」との認識を示した。米関税公表後も保たれる企業の賃上げ・価格設定行動の積極姿勢や家計のインフレ予想上昇に触れ、「物価の上振れリスクは膨らんでいる」と指摘。「将来の急激な利上げによるショックを避けるため、中立金利にもう少し近づけておくべき」と、引き続き追加利上げに前向きな姿勢を表した。沖縄県那覇市での講演で語った。
田村委員は講演で、先行きの物価動向を巡り、経済成長ペースの鈍化などの影響で「当面、伸び悩むものの、展望レポート(経済・物価情勢の展望)の見通し期間(2025~27年度)の後半には『2%目標』と整合的な水準で推移する」と見立てる日銀の公式的見解を説明。そのうえで、「実現が前倒しされる可能性が高い」と自身の考えを述べ、物価の上振れリスクを強調した。賃上げや設備投資が勢いを維持しているほか、サービス価格の上昇・家計のインフレ期待の高まりなど持続的な物価上昇の構造が形成されつつある実態を訴えた。
前回(9月)の金融政策決定会合では、高田創審議委員とともに政策金利を現行の0.5%から0.75%への追加利上げを提案。賛成少数で否決された。田村委員は「経済や物価の上振れ・下振れ両にらみの状況に備えるには、中立的な金融政策スタンスに近づけておくことがリスクマネジメント上、重要」と、追加利上げを提案した背景を語り、ビハインド・ザ・カーブ(後追いの政策対応)を避ける政策運営を求めた。
同会合で決めたETF(上場投資信託)・J-REIT(不動産投資信託)の売却については「市場に撹乱的な影響を与えない範囲で進めるのはやむを得ない」と述べ、長期的視点での政策運営に基づく判断だったことを明かした。
中立金利「まだまだ距離」
田村委員は講演後の会見で、10月4日の自民党総裁選後に乱高下する株式市場について、「市場の安定だけを優先し過ぎると、経済・物価に応じた適切な金融政策が取れなくなる懸念があるほか、経済・物価情勢と市場との間の歪(ゆが)みを拡大させてしまうリスクもある」と指摘。半面、「急変動は望ましくない。過度にフラジャイル(不安定)なとき、冷却期間を置くという対応が必要なケースもある」とし、政策判断における柔軟性も合わせて訴えた。
円安(ドル高)基調が続く為替相場に関しては、「経済・物価に大きな影響を与えるものであり、円安は物価の上振れリスクを増大させる」と懸念。「企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があることは意識しておく必要がある」と注視する姿勢を表わした。
高市早苗・自民党新総裁が就任直後の会見で語った「ディマンドプル(需要けん引)型のインフレがベスト」といった経済思想に基づく緩和継続スタンスに対しては、個人の見解としたうえで「コストプッシュ要因に加え、人手不足によって設備が十分に稼働させられず、需要が潜在的な供給力を上回っている」とし、〝供給量不足〟を主因とした物価上昇を主張した。
ターミナルレート(政策金利の最終到達点)に深く関わり、「最低でも1%」と見立てる中立金利については、「現時点で水準を特定することは難しく、かなりの幅をもってみる必要がある」としたうえで、「金融実務家として企業や家計と接してきた感覚や、このところの企業や金融機関経営者の声などを踏まえ、最低でもこれぐらいまでは(引き上げるべき)とイメージしている水準」との考えを語った。一方、「0.5%」まで引き上げた(追加)利上げの影響は「極めて限定的であり、中立金利の水準にはまだまだ距離がある」と訴えた。
上昇基調が強まる不動産価格や株価といった資産価格の現状は、前々回(7月)の金融政策決定会合で点検した展望レポートの評価を持ち出し、「全体としてみれば、資産市場や金融機関の与信活動に過熱感は見られていない」と述べた。
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