日銀・野口委員、政策運営「慎重な楽観論」必要 米関税の不確実性〝少しずつ晴れる〟
2025.05.22 11:59
日本銀行の野口旭審議委員は5月22日、米トランプ関税政策下の金融政策スタンスついて、「海外リスクをしっかり見据えつつも、状況の進展を冷静に見極めていく『慎重な楽観論』」の必要性を訴えた。宮崎市内で開いた金融経済懇談会の講演で語った。
野口委員は、政策判断において日銀が重要視する「物価の基調」に関し、物価安定目標の「2%」に「達していない」と自身の見解を述べた。販売価格に占める人件費の割合が「財(モノ)」に比べて高いサービス価格の水準の低さなどを背景として挙げ、「賃上げの価格転嫁は、企業向け取引では進展していても、消費者向け取引ではまだ道半ばにすぎない」との認識を示した。
一方、3年連続となる高水準の賃上げや足元の企業サービス価格の伸びを踏まえ、「(物価の上振れ・下振れリスクを含む)経済状況の進展を注意深く確認しつつ、慎重に政策調整を進めていく」との考えを述べ、政策金利引き上げの波及効果などをにらみつつ、〝ほふく前進的〟な利上げ姿勢を強調した。
次回(6月16、17日開催)の金融政策決定会合で「中間評価」する国債購入減額計画については、「既存の計画を大きく変更する必要性は感じない」との見方を示した。
長期金利介入「適切でない」
野口委員は講演後の会見で、次回の金融政策決定会合で議論する「2026年4月以降」の国債購入減額計画について、「柔軟性を伴った予見可能性が一番重要」と強調。5月20、21日に日銀が開いた債券市場参加者会合での意見を踏まえたうえで、「計画を大きく変えることはおそらくない」との所感を述べつつ、「(月間購入額を毎四半期)4000億円(減額していく)という数字を維持すべきかは今後の検討次第」と、具体的な減額ペースの明言は避けた。
一方、上昇基調が際立つ足元の長期・超長期金利の動向には、「急激ではあるものの、異常な動きであると一概に決めつけることはできない。(日銀が)介入して操作することは適切でない」と言及。「(マーケットが抱く)将来の予想(金利見通し)や思惑を反映してかなりボラタイル(気まぐれ)に動く」と長期金利の本来的な性質に触れた。
講演で用いた「慎重な楽観論」の表現に関しては、名目賃金の上昇や中小企業にも広がる価格転嫁の動きを念頭に「(日銀が)思い描いた通り、あるいは、それ以上に進展していた部分もある」と国内経済・物価情勢に対する手応えを述べ、「将来をあまりにも悲観的に見るよりは、ポジティブな部分が進展することを期待しながらリスクを見極めていくのがちょうどいいスタンス」と真意を語った。
〝次の利上げ〟の焦点としては、「自動車関税がどのように落ち着くか」と日米関税協議の行方を挙げた。
また、相互関税率を大幅に引き下げた米中協議の進展を受け、「少しずつ霧が晴れているという状況」との現状認識を示し、米関税公表後の4月に動揺がみられた金融市場も「落ち着きを取り戻している」との見方を表した。