入門スタートアップファイナンス 第4回 バンカーに馴染のない業界用語

2025.01.07 04:25
入門スタートアップファイナンス
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目次

 


現場で役立つ目線でスタートアップファイナンスを学ぶうえで必要な知識や考え方を解説する「入門スタートアップ」。これまで、日本におけるスタートアップの概要(第1回)、ベンチャーキャピタル(第2回)、ベンチャーデット(第3回)と順を追って解説してきました。


そして第4回となる今回では、地域の中小企業とスタートアップ企業で使われる用語の違いに焦点を当て、「バーンレート」と「ランウェイ」という重要な概念を取り上げます。


 


スタートアップの資金繰りで頻出する「バーンレート」

金融機関が企業への融資を検討する際に、融資を行うかどうかの判断材料の一つとして資金繰りが挙げられます。


資金繰りについては、損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)には直接出てこないため、多くの場合、表計算ソフトを用いて資金繰り表を企業は作成することになります。資金繰り表以外にも、キャッシュフロー計算書(C/S)を作成したり、会計ソフトで資金繰りを見ることも多いです。


そのような中、スタートアップ企業では「バーンレート」と「ランウェイ」という言葉が頻繁に用いられます。これらは、スタートアップ特有の資金繰りに関する指標であり、事業の持続性や調達のタイミングを判断するための鍵となります。


バーンレートとは、毎月出ていくお金のことを言います。まさにお金が「燃える」が如くスタートアップでは資金流出していくのです。このバーンレートにはグロスバーンレートとネットバーンレートがあります。グロスバーンレートとは、毎月出ていくお金の金額のことを言います。ネットバーンレートは、売上高、売掛金、前受金等の入金をふまえて毎月出ていくお金のことを言います。


例えば、人件費、家賃、広告宣伝費等で毎月200万円キャッシュアウト(資金流出)するとします。この200万円はグロスバーンレートです。一方で、毎月100万円の売上による入金があった場合、ネットバーンレートは売上高100万円ー支出200万円=▲100万になります。仮にグロスバーンレートが一定で、売上高が毎月変動する場合、ネットバーンレートも毎月変動することになります。



出所:筆者作成

おそらくスタートアップに直接関わったことがない金融業界の方は、この「バーンレート」と言う言葉は、あまり馴染みがないかと思います。


実際のところ、筆者自身、銀行で12年強働き、証券化、不良債権投資、プロジェクトファイナンスといった様々なファイナンス実務に携わってきましたが、この「バーンレート」という言葉は、スタートアップに関わるまで聞いたことがありませんでした。それほど、この指標はスタートアップ特有の概念と言えます。


「ランウェイ」を計算する2つの方法


ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を検討する際に、VCから最もよく聞かれるのがこのバーンレートです。ただし、グロスなのか、ネットなのかで意味が大きく異なります。


スタートアップが投資家から「バーンレートは毎月どのぐらいですか?」と聞かれた場合には、グロスバーンレートかネットバーンレートかどちらか明示して答えることが重要です。


このバーンレートと現金残高から計算されるのがランウェイです。ランウェイは現金残高÷ネットバーンレートから計算されます。


例えば、現金残高が1000万円とします。毎月のネットバーンレートが100万円の場合、ランウェイは以下のとおりです。


1000万円(現金残高)÷100万円(ネットバーンレート)=10ヶ月


ただし、売上高は毎月変動し、確実に売上が立つことが見込まれないような時は、保守的にランウェイを計算する場合はネットバーンレートよりもグロスバーンレートを用いた方が良いでしょう。


先の例で言うと、現金の残高が1000万円、毎月のキャッシュアウトが200万円、売上高は月に最高で100万円ある場合もあれば、まったく売上がたたない時もあるような状況を想定します。グロスバーンレートとネットバーンレートを用いてそれぞれ計算することで、最短と最長のランウェイを計算することができます。


<最短のランウェイ>


1000万円(現金残高)÷ 200万円(グロスバーンレート)=5ヶ月


<最長のランウェイ>


1000万円(現金残高)÷100万円(ネットバーンレート)=10ヶ月



出所:筆者作成

いかにしてランウェイを伸ばすか


資金が限られるスタートアップにとって、ランウェイをいかに延ばすかは生死を分ける課題です。実務的には、バーンレートを減らすことで、多少はランウェイを伸ばすこともできます。


先ほどの例では、「人件費、家賃、広告宣伝費等で毎月200万円キャッシュアウト(資金流出)する」という想定を置いていました。メンバーの人件費や家賃を削ることは難しいですが、代表の給与の支払いを遅らせることはよくあることですし、広告宣伝費も抑えることで短期的なバーンレートを下げることはできます。その結果としてランウェイも伸びることになります。


当初は赤字が続くスタートアップの事業では、仮説検証を通じての価値検証が必要になってきます。この価値検証ではwebでの広告や顧客獲得に費用を投じることになります。ですが、資金を投じすぎて、資金繰りに窮すると元も子もありません。


資金調達がままならないスタートアップでは、バーンレートをいかにおさえて、ランウェイを伸ばしながらも、上手に仮説検証、価値検証を進めていくことが重要になります。


これら価値検証を通じて、今後の成長が期待できるようになった際には、スタートアップは、VCからのエクイティファイナンスや第3回の連載でも学んだベンチャーデットを通じて、資金調達ができるようになってきます。


言ってみれば、スタートアップ企業はバーンレートとランウェイと日々睨めっこをしながら、事業を進めていると言えます。


今回は、地域の中小企業とスタートアップ企業の現場で使われる用語の違いとして、「バーンレート」と「ランウェイ」について解説を行いました。


「バーンレート」や「ランウェイ」は資金調達をした直後のスタートアップでも常に管理をするぐらい重要な指標です。地域金融機関がスタートアップ企業の融資検討をする際にも是非この二つの用語を踏まえていただければと思います。


次回はスタートアップ企業の事業計画について解説を行います。



株式会社ファインディールズ代表取締役 村上  茂久(むらかみ しげひさ)氏


株式会社ファインディールズ 代表取締役、iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授、跡見学園女子大学兼任講師。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業(https://finedeals.jp/)。著書に『決算書ナゾトキトレーニング』 『一歩先の企業・株価分析ができる マンガでわかる 決算書ナゾトキトレーニング』(ともにPHP研究所)、『決算分析の地図 財務3表だけではつかめないビジネスモデルを視る技術』(ソシム)。


◇ バックナンバー ◇


第1回 スタートアップの特徴をおさえる


第2回 VCはなぜ赤字の企業にも資金提供ができるのか?


第3回 活性化するベンチャーデットの現在地


 

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