入門スタートアップファイナンス 第1回 スタートアップの特徴をおさえる

2024.10.01 04:25
入門スタートアップファイナンス
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目次

はじめに

近年スタートアップがますます注目されている。実際、岸田政権は「新しい資本主義」の実現に向け、2022年をスタートアップ創出元年とし、スタートアップ育成5カ年計画を掲げ、様々なスタートアップ支援施策を打ち出した。


金融機関としては新たな産業の萌芽を見つけ、スタートアップを育成していきたいところである。そこで全6回にわたり、「入門スタートアップファイナンス」と題し、「スタートアップとは何なのか」や「スタートアップに対して提供するファイナンスとはどのような特徴があるのか」など、スタートアップファイナンスにまつわる各種疑問を中心に本連載では解説する。


第一回は「スタートアップの特徴」について、従来の中小企業と比較しながら考察する。


スタートアップの存在意義

まず、経済産業省の『スタートアップ育成に向けた政府の取組』によれば、『スタートアップ』とは、次のように定義されている。


1. 新しい企業であって、


2. 新しい技術やビジネスモデル(イノベーション)を有し、


3. 急成長を目指す企業


スタートアップは産業の新陳代謝を促し、社会全体の進化を後押しする役割を果たす存在である。スタートアップの存在意義は多岐にわたるが、主に以下の点が挙げられる。


1. イノベーションの推進

第一に、スタートアップは新しい技術やビジネスモデルを開発・導入することで、産業全体にイノベーションをもたらす。大企業では難しいリスクの高い挑戦も、スタートアップならではの柔軟性とスピードで実現する。例えば、メルカリは、個人間で簡単に商品を売買できるプラットフォームを提供することで、中古品市場において革命をもたらしたといえる。


2. 雇用機会の創出

第二に、スタートアップは新たな雇用機会を創出し、経済成長を促進する。成功したスタートアップは急速に成長し、多くの人々を雇用する。スタートアップは新しい産業や市場を創出し、地域経済の多様化と成長を促進する。経済産業省によれば、日本におけるスタートアップの経済効果としては、52万人の雇用の創出、19.39兆円のGDPが創出されたと推計されている。



出所:令和 5 年度スタートアップによる経済波及効果 ‒調査概要‒


3. 競争の促進

第三に、スタートアップの登場は既存の企業に対する競争を促進し、全体として市場の競争力を強化する。これにより、消費者にとってはより良い製品やサービスが提供されることになる。例えば、クラウドで会計ソフトシステムを提供するマネーフォワードやフリーなどの登場により、日本のバックオフィス業務は大きく変わることになった。会計以外にも人事労務システム、電子契約システム、請求書管理システムなどのSaaS(サービスとしてのソフトウェア)関連ビジネスを提供するスタートアップが台頭することで、バックオフィスに関連する市場の競争は促進され、ユーザーの利便性は高まることになったのである。


中小企業との3つの違い

上記を踏まえて、中小企業とスタートアップでは何が異なるのか。違いを理解するキーワードは大きく3点ある。


<エクイティファイナンス>

スタートアップは新しい技術やビジネスモデルによって新たな市場を創出する存在ゆえに、先行投資の期間を必要とし、十分な利潤を社会に還元するまでに時間と資金を要する。


一方で、技術革新のスピードも速いため、競争優位を築くために短期間での急成長も余儀なくされる。したがって、先行投資ゆえに連続赤字や債務超過によって、金融機関内では格付が低くなる。いわゆる図表のようなJカーブをスタートアップ企業は掘ることになる。返済原資となる利益の確保より、事業拡大を優先することも多いため、融資にそぐわず、ベンチャーキャピタル(以下、「VC」)からのエクイティファイナンスを、複数回にわたって実施することが多い。



<急成長>

スタートアップは、シード〜アーリー〜ミドル〜レイターという順に、事業成長に応じて段階的に、VCからのエクイティファイナンスを実施する。


事業成長に応じて段階的に資金調達を行うことで必要な資金を効率的に調達することができ、企業価値が上がった後に資金調達をすることで少ない株式の希薄化でより有利な条件で資金を調達することができる。


調達した資金は事業の急激な拡大のために、エンジニアや営業等の人件費の先行投資に使われる。そうしてスタートアップは短期間のうちに急激に雇用を創出し、事業を拡大する。


<EXIT>

中小企業の中には上場を目指して事業活動を行う会社も少なくないが、スタートアップの場合には、前述の通りVCからのエクイティファイナンスを実施している企業が多く、エクイティファイナンスを実施するということは、VCに株式を売却する機会の提供が求められる。売却の機会であるIPOまたはM&Aのことを「EXIT」と呼び、EXITには期限もある。出資を受けたファンドの満期(通常10〜12年)までにEXITする努力義務が課せられる。


スタートアップとは、新しい技術やビジネスモデルによって、事業成長段階に応じて資金調達を行いながら、急成長を志向し、その過程でイノベーションの推進や雇用機会の創出、競争の促進が期待される新しい企業のことである。


それゆえに、スタートアップには前述の、中小企業と異なる以下の3つの特徴がある。


1. エクイティファイナンス中心


2. 急成長を志向


3. EXITを志向


これらの特徴からスタートアップファイナンスにおいては、中小企業では頻出しない論点が登場するため、次回以降に詳しく説明する。


株式会社INQ代表取締役CEO 若林哲平(わかばやし てっぺい)氏


1980年東京都清瀬市生まれ、神奈川県相模原市出身、青山学院大学経営学部卒、 スタートアップの融資支援の株式会社INQ代表取締役CEO。VC・エンジェル投資家、起業家からのスタートアップをご紹介頂き、融資による資金調達を累計1,000件超80億円以上支援。東京都ASAC・NEXs TOKYOなどの自治体のアクセラレーションプログラムのメンターの他、複数のスタートアップの社外CFOを務める。 趣味は音楽とお弁当づくり。4児の父

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