金融庁、大手損保4社に改善命令 576先で価格調整確認
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金融庁は12月26日、企業や地方公共団体向けの共同保険で価格を調整していた大手損害保険4社に業務改善命令を出した。少なくとも576先に対する契約で独占禁止法違反が疑われる不適切な事案を確認し、談合が業界に根付いていた実態を問題視している。幹事社が提示した低い保険料を基準に組成される共同保険のビジネス慣行や、政策保有株の持ち合いなどによる顧客企業との親密な関係が契約の決め手になる状況を改革するよう求める。
改善命令の対象は、あいおいニッセイ同和損害保険、損害保険ジャパン、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険。報告徴求命令で少なくとも過去5年の共同保険契約について価格調整の有無を調べた結果、4社のうち1社以上が不適切な契約を確認した企業や地方公共団体が576先にのぼった。このうち、4社がそろって示した取引先は少なく、1社だけの報告にとどまったのが458先を占める。価格調整では各社が共通認識を持って不正を働いているにもかかわらず報告状況に差異が生じているため、同庁は今後も調査を続ける。
調査では、4社で独禁法順守の意識が希薄化していた実態も浮き彫りになった。営業部店向けのアンケートでは、価格調整を「違法または不適切」と認識していた社員が33%にとどまり、課長以上の上司が調整を指示している事例も見られた。コンプライアンス部門に相談・報告した社員は1%だけで、不正を不正と思わない環境ができあがっていた。
同庁は価格調整が横行するに至った背景として、損保各社による独禁法を順守するための態勢縮小や自然災害の頻発化を指摘。近年、コンプライアンス部門の守備範囲が広がる過程で独禁法順守に特化した組織や研修は減り、台風の大規模化などは火災保険の大幅な赤字を常態化させた。取引先が求める保険料の引き下げを防ぎつつ契約を維持するために各社が一致したという見方を示し、「競争を避けたいという動機の要因になった可能性がある」(同庁)。大手損保の合併が進んだ結果、限られた営業担当者の間で対話する機会が増えた点も遠因として認識している。
改善命令では経営責任の明確化や再発防止策の検討を求めたほか、公正な競争環境の整備にも取り組むよう各社を指導する。今後は政策保有株の売却がさらに加速する可能性があり、損保による取引先への顧客誘導など「本業支援」も縮小する流れになりそうだ。同庁は改善命令で個社に対応を促しつつ、規制の見直しにも踏み込む構えで、2024年はビッグモーターによる保険金不正請求も踏まえて業界の構造問題にメスを入れる。
鈴木俊一・金融担当大臣は同日の閣議後記者会見で、「悪質性が高く大変遺憾。二度と起こさぬよう抜本的な改善を求める」と話した。
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