寄稿「自治体×金融」(最終回) 地域の興亡は「対話」がカギに

2023.01.22 04:50
地方創生 自治体×金融
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連携が拓く地方創生の未来

「人」と「人」の縁を大事にした活動を続ければ奇跡さえも起こる――。所属する組織が異なる者が出会い、対話することによって偶然とも言えるような結果につながることがあります。連載最終回はよく聞かれる質問に回答する形式で、人縁を通じて活路が見つけられた事例を紹介します。皆様が一歩、踏み出す契機となれば破顔一笑です。



自治体と金融機関の連携は、最初から狙っていたんですか?


結論から言えば、ほとんどの場合は狙っていません。まず行うのは何度か対話することです。そして、互いに信頼できる関係を築きます。話題は何でも構わないというスタンスが大事です。対話をきっかけに一つでも連携できそうな事業が見つかればすぐに協定締結に動きます。たとえ協定に至らなくても協働し、そこからさらに異なる連携事業につなげる――。いつもそんな調子です。


例えば、西川町と「よい仕事おこしフェア実行委員会」(事務局=城南信用金庫)の連携です。同委員会は全国の信金が連携して地域活性化へ活動する組織で、商談会やマッチングサイトを運営しています。城南信金の方々とは金融庁に勤務していた時から深い関係を築いている旧知の間柄です。連携協定では、地元産の山ぶどうを使ったビール製造や東京都内で特産品の販路拡大をサポートしてもらうことで合意しました。


城南信金から紹介されたのが山形信用金庫です。西川町から40キロ程度離れた山形市に本店を置いています。西川町は営業エリアに含まれるものの、信金の店舗はありません。販路拡大へ連携することになったとはいえ、当初は「さすがに限定的な取り組みにとどまるだろう」と考えていました。しかし、山形信金の山口盛雄理事長と地方創生への熱い想いをぶつけ合ううちに取り組みを発展できたのです。


私は「山形市に西川町を広報するスペースがほしい」と要望しました。山形信金は「旧店舗を地方創生に活用したい」という思いを持っており、マッチングが実現しました。目抜き通りに立地する旧店舗に広報ブースを常設してくれ、西川町は県庁所在地に無料で拠点を設けられたのです。



西川町の特産品販売を手伝う山形信金職員(左、22年10月21日、山形信金山形営業部の駐車場)
西川町の特産品販売を手伝う山形信金職員(左、22年10月21日、山形信金山形営業部の駐車場)

西川町の山菜、きのこは集客につなげられる!」。特産品にも注目してくれました。キャンペーン預金の取り扱い開始日に合わせ、地元産の野菜などを販売する機会を提供してくれ、商品を完売できました。



金融機関との連携では契約しない場合もあり得ますか?


もちろん、あります。最近の取り組みでは宮城第一信用金庫(宮城県仙台市)との協働です。西川町は22年10月、東北最大の都市「仙台市」で開かれた物販イベントに出店しました。当時、宮城第一信金とは連携協定を結んでいませんでしたが、そのサポートを買って出てくれたのです。イベントでは役職員の方々がチラシ配布などを手伝ってくれました。(宮城第一信金とはイベントの2カ月後、22年12月に包括連携協定締結)。



チラシを手に来場者へ西川町をPRする宮城第一信金職員(左、22年10月15日、東照宮境内)

西川町役場の職員が感激したのは、特産品の完売を目指す信金職員の姿でした。営業エリア外にある自治体の手伝いにもかかわらず自分事として捉え、来場者に声をかけていたのです。


さまざまな人の助けを借りるためにカギを握るのは「共感」です。この取り組みを通じ、私自身も「共感してもらえるにはどうしたらよいか」考えるためのヒントを得られました。これから拡大させたいと考える「関係人口」の姿も身近に感じることができました。


一方、西川町では、霞が関など国の関係部署を訪問する際には、可能な限り信金に「同行しないか」と声をかけるようにしています。それぞれの補助金の目的などを肌で感じてもらい、取引先支援に生かしてほしいからです。「観光庁の補助金を獲得したい」と取引先の要望を受けた宮城第一信金は職員を同行させました。ヒントを得てもらった結果、最終的に取引先の案件をフォローし、採択された事例も生まれました。


宮城第一信金のように、契約を結ばなくても、深い対話は十分できます。観光の町・西川町にとって、仙台市は入込客数の2割を占める重点エリアです。100万人が暮らす都市にある信金が「共感パートナー」になってくれているのは心強い限りです。



公務員から見た金融機関の価値って何ですか?


唯一無二の価値を感じるのは金融機関が積み重ねてきた「信用」と「情報」です。公務員だけでなく、一般の方も含めて金融機関は資金を貸し出すところというイメージが強いと思いますが、金融機関が持つ無形資産の価値を評価すべきです。


22年11月、西川町に新ブランド牛「月山和牛」が誕生しました。実は実現の立役者は奈良中央信用金庫なのです。


奈良県に本社を置く食肉会社の肥育場が西川町にあり、その肉牛は奈良県で高級ブランド牛として確固たる地位を築いています。西川町では新ブランド牛の立ち上げに向け、食肉会社に肉牛の供給をお願いしました。


しかし、供給可能なのは1か月間のみで、新たなブランドをあきらめかけました。「肉牛提供期間の制限がなくなれば、ブランド牛を打ち出せるのに」。


そこで頼ったのは奈良中央信金の知人です。連絡を取ったところ、食肉会社が信金の取引先だとわかり、悩みを打ち明けました。奈良中央信金が食肉会社と対話すると、取引先が抱える悩みを教えてくれたそうです。「消臭効果のある籾殻の不足と肥料の販路拡大という課題を乗り越えられれば…」。



奈良中央信金や和牛販売事業者との提携式(右端が筆者、22年10月3日、西川町役場)
奈良中央信金や和牛販売事業者との提携式(右端が筆者、22年10月3日、西川町役場)

私ら町側は食肉会社の悩みを把握できていませんでした。西川町にとってその解決はお安い御用です。町内の農家に籾の提供を要請し、肥料も町が強力に広報すると伝えました。すると、年間を通じて肉牛の安定供給を約束してくれたのです。西川町のブランド牛の誕生は、取引先から信頼される金融機関が動き、情報を集め、仲介したことによって実現したのです。



金融機関の本業に関わる地方創生の連携事例はありますか?


西川町は23年春、専門学校や大学などを卒業した後も町内に居住する方を対象にした新たな制度を立ち上げます。町民が抱える教育ローンの元利金全額を免除するのが柱です。若者の定住を促し、学生も支援します。地域金融機関と連携し、東北地区で初めての取り組みに挑みます。


スキームをまとめたのは普段、金融機関と交流を持っていない教育担当課です。元利金の免除は町にとって一定の負担が生じることになる一方、奨学金に比べれば事務を効率化でき、定住への実効性を高められるとみています。


地域行政が目指すべきは地域の課題解決です。金融機関が持つ本業の力を生かせる場面は多いのではないでしょうか。



◇ 結び ◇       


1月4日公開の連載1回目から「とにかく対話を始める」ことを強調してきました。自分が動けば可能性という芽が顔を出し、出会う人たちから刺激を受けて成長し、やがて花が咲くと信じているからです。そして、その姿を認め、応援してくれる人が必ず現れます。


難しく考える必要はありません。最初から何かを実現させようと狙って動こうとするより、とりあえず異業種の方と話を始めてみることをお勧めします。興味深い「面白い方」は全国に多くいます。


地方創生には「産学官金の連携」が必要と言われます。政府が策定する方針に多く出てくる表現です。行政が地域金融機関を通じ、支援策を全国に行き渡らせようとするのは「金融機能と働く人財」の価値を認めているからです。


地域行政を担う自治体、行政が把握し切れない課題や実情を知る金融機関が前向きに連携すれば、挑戦できる舞台は広がるはずです。私は地域の興亡は「自治体×金融×熱意」次第だと思っています。


私が全国の様々な“人財”と出会えた「ちいきん会」は、遠藤俊英長官時代の金融庁が若手のアイデアを生かそうと始めた「政策オープンラボ」というサークル活動が源流です。私たちは「部活」と位置づけていました。


肩ひじ張らず、所属組織・肩書きにとらわれず――。ちいきん会が大切にする考え方です。時には中央省庁や地域金融機関のトップが休日に参加し、同じ輪のなかで現場を支える行職員の皆さんと対話することもありました。



写真説明=福島県で開いた「ちいきん会」には約380人が集った(19年11月)
写真説明=福島県で開いた「ちいきん会」には約380人が集った(19年11月)

最初は地方創生に対して熱い想いを持っていなくても問題ありません。参加者の意欲に刺激を受け、動き出す姿をたくさん見てきました。私自身もそうした存在でした。


2023年2月26日、ちいきん会が「東京の霞が関「官民共創HUB」をメイン会場にして全国のダイアログをつないで開かれます。私も参加する予定です。ぜひ、ともに一歩目を踏み出し、一緒に対話を始めてみませんか?
(おわり)


①~③の寄稿は下記よりご覧いただけます。


「自治体×金融」①~黒子でも主役に


「自治体×金融」② 真の連携へ“個”を活用


「自治体×金融」③ 官金連携で「地域の共通価値」創造へ


 


 

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