寄稿「自治体×金融」③ 官金連携で「地域の共通価値」創造へ
2023.01.15 04:50連載2回目では、“個”と“個”の公私にわたる関係から組織の連携や事業創造に結びついた取り組みを紹介しました。今回は、地方自治体と金融機関が組織と組織で対話した結果、それぞれの特徴を生かした連携に結びついた事例とともに、何をきっかけにして対話すべきかを説明します。組織といっても、金融機関の企業支援部署や支店長、自治体の企画担当の方にご笑覧いただければ幸いです。
前々回(連載第1回、1月4日公開)に「自治体と金融機関の連携には伸びしろがあり、なぜ今、連携が求められているのかという点を説明しました。おさらいすると、自治体が国から交付金を獲得するには能動的にアイデアを出す必要性が高まり、地域金融機関は超低金利政策により厳しい収益環境に変わり、⾦融面以外の事業者⽀援を求められるようになったからです。図らずも、ほぼ同時期に両者を取り巻く環境には大きな変化が起こり、能動的にアイデアを出さなければならない状況になったということです。
今回紹介したいのは自治体と金融機関の目的が異なるものの、「人」の活用を通じて「WIN-WINの関係」を構築できた事例です。
課題解決へ人材紹介が加速
2018年3月の金融庁の監督指針改正を受け、金融機関による人材紹介業務が解禁されました。数年前から取引先事業者に人材を紹介する流れが加速しています。
金融庁は事業者に対する人材支援の後押しを明確に打ち出しています。2022事務年度金融行政方針に「地域金融機関による金融面以外の事業者支援を後押しする。具体的には、経営人材のマッチングを促進するため、REVIC(地域経済活性化支援機構)が整備する人材プラットフォームの機能の充実や規模の拡充を行う・・・」と盛り込みました。
しかし、ちいきん会に関わる金融機関行職員からは課題を指摘する声も出ています。「事業性評価シートに沿ったヒアリングでは、企業の沿革や事業内容、資金繰りが主なテーマであり、『人』に関する情報は後継者が確保できているかどうかの記載がほとんど」だというのです。
加えて、「営業店に対して研修が行われるものの、実際の案件が少なく、ノウハウは徐々にしか蓄積できない」という指摘もあります。経営課題の解決につながる人材の紹介は本部が対応し、営業店は伴走支援にとどまるという側面もあるようです。
また、「人材を求める企業が見つかっても、仲介手数料や外部人材の人件費などが折り合わず、成約しなかった」。そんな現状も耳にします。特に協同組織金融機関の職員から聞くことが多いです。
こうした声は当初から根強いものです。私は現状を知りたいと思い、2020年4月から2年間、国家公務員の仕事の傍ら、人材紹介会社にボランティアとして勤務しました。これにより気づいたのは本業を持ちながら地方の企業を支援する“複業人材”の有用性と事業者に紹介するまでの課題です。
人材紹介の現場に入ってみると、“複業人材”の活用は金融機関にとって事業者支援の重要なツールになると感じました。ただ、行職員のノウハウ蓄積と企業側の費用負担という壁(課題)を乗り越えることが必要になります。
一方、自治体には、移住や関係人口を増加させる政策として活用したいというニーズが多くあります。ただ、事業者の掘り起こしが難しいという課題が見つかりました。
ちいきん会で話し合ってみると、自治体の課題である事業者の掘り起こしは、幅広い顧客基盤を持つ金融機関が担えば解決できます。金融機関の課題になるノウハウ蓄積と企業側の負担軽減は自治体が補助事業として手助けすることができるはず!
これを実践するために、ちいきん会では、志の高い自治体と金融機関がある地域でダイアログ(対話)を立ち上げました。福島県、神奈川県、静岡県、石川県では官金が連携し、企業への人材支援を進めてきました。関係者がともに学び、対話できた結果、特に、福島県では産学官金が連携した「外部人材活用協議会」が立ち上がり、3年間でマッチングが340件を超える成果が出ています。
実証結果を踏まえたポイントはここ!
従来であれば複業人材の活用はニーズを持つ企業と人材紹介会社の間だけで完結できます。しかし、ダイアログでは、官金連携に徹する特徴があります。その効果は次の通りです。
①経営者と真の経営課題を洗い出して、明確化させるのは、取引先企業のビジネスを理解している金融機関のほうが人材紹介会社より優位性があります。しかし、金融機関は課題を切り出すノウハウを磨く必要があり、複業人材を紹介するスキームを体験し、事業者に自ら説明するスキルも求められます。このため、自治体が事例紹介やケーススタディを行うなど、金融機関が実践しやすい環境づくりが重要になります。
②事業者に複業人材への認知を高めてもらうことが必要になります。複業は本業に次ぐ「副業」が片手間で働くイメージが強いためか、企業のニーズが低いのが現状です。逆に、複数の本業を持つ「パラレルワーク」を行う複業人材は国の方針を受けて、認める企業が増えるにつれ、人数も順調に増えています。福島県を例に挙げると、1企業の求人に対して5人以上が手を挙げる企業有利の「買い手市場」と言えます。複業人材の採用マーケットは黎明期であり、先行メリットを地域で享受するチャンスと捉えられます。
③複業人材を活用した企業はリピートする場合が少なくありません。まだ活用に踏み切れていない企業の負担軽減に向け、自治体は補助の仕組みを構築することをお勧めします。この事業については、デジタル田園都市国家構想実現会議事務局から事業費の2分の1の補助を受けられる可能性があります。
④人材活用による課題解決後のフォローアップも官金の連携が大切になります。複業人材のフォローを担うのは自治体、事業者を支援するのは金融機関などが適しており、アフターフォローを仕事化することができることでしょう。
“複業人材”の活用へ対話!
複業人材の活用は、官金の強みと弱みを補い合い、地域に先行メリットをもたらす連携事業になる可能性が高いです。しかし、いまだ事例は少ないのが現状です。この解消には、官金双方が同じ想いを持つ自治体、あるいは金融機関のいずれかが提案し、互いに理解を深める「対話」が必要です。
金融機関が人材活用に関心を持つ自治体を探し出すにはどうすべきでしょうか。お勧めは自治体の中期計画である地方創生関連の「総合戦略」「総合計画」を確認することです。戦略に「複業人材」の言葉が記載されているかどうかを検索して確認すれば見当をつけられるはずです。仮に記載されていない自治体には、地方創生推進交付金(補助率1/2)の対象であることを説明すれば関心を高められる可能性があります。
「複業人材活用の先進事例を知りたい」「補助金の要綱を確認したい」「国の補助金を得るための情報が必要」。こんな要望を持つ金融機関や自治体の方は「ちいきん会」に連絡下さい!必要に応じて、個別に説明させていただきます。
金融機関と自治体は目的が完全に一致しないかもしれません。しかし、事業者支援と移住推進、交流人口の拡大につながる「人材活用」は双方にメリットがあります。まさに地域における「共通価値の創造」への第一歩になる可能性を秘めています。まずはぜひ対話をしていきましょう。
これまでの寄稿は下記からご覧いただけます。