寄稿「自治体×金融」② 真の連携へ“個”を活用

2023.01.08 04:55
地方創生 自治体×金融
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連携が拓く地方創生の未来

私が「ちいきん会」を起ち上げた目的も、金融機関と地方自治体の真の連携推進です。この度の寄稿もその一助になってほしいと思います。


さて、前号(1月4日公開)では「地方自治体と金融機関の連携がまだまだ伸びしろが大きい」と強調しました。今回はさらに掘り下げて説明し、官金連携が①なぜ今なのか!②心理的安全性はなぜ必要なのか!③その効果(連携事例)は生まれているか――について書きたいと思います。



①なぜ、今、官金連携なのか!


かつて日本が人口増加・経済成長の局面だったころ、公務員も金融機関も法律や制度(免許制)に守られ、会社としても個人としても安定した収入を得られる職業でした。このため、「事なかれ主義」の役人・銀行員が一定数、存在することは否定できない事実です。しかし、少子高齢化・人口減少の現在においては、局面が異なります。


公的セクターでは、8年ほど前から国と地方の関係が変わり、アイデアを出した自治体に対して資金配分される仕組みが導入されました。金融セクターにおいても、免許制の下、預貸金の利ざやで稼ぐビジネスモデルが長らく続いてきましたが、超低金利政策により厳しい収益環境に変わり、局面が大きく転換しました。


一方、最近では地域商社設立が可能になるなどの規制緩和が進められ、地域などから期待される役割を見据えた持続可能なビジネスモデルの構築が必要となりました。このため、今は組織変革や人材育成方針を見直し、地域活性化に向けたアイデアや企画を自ら出す「想像力」を養うことが不可欠になっています。


これまで(平成のころまで)の官金連携は、融資に対する利子補給や振り込め詐欺対策といった限定的な連携が主流でした。しかし、今は自治体と金融機関は、図らずも同時期に取り巻く環境の変化への対応が求められています。それゆえに「地域活性化」という共通の使命を担うパートナーになったのです。連携の必要性は高まるばかりです。今後、さらに連携を深めればまだまだ伸びしろが十分にあります。


ただし、これまでも一定の対話や連携が行われており、さらに連携することは容易ではありません。その壁を乗り越えるカギは、相互理解につながる深い対話です。その前提となるのが「心理的安全な関係」の構築です。



②心理的安全性はなぜ必要なのか!



「個」のつながりが企業誘致に結びついた(写真は朝日相扶製作所の阿部 佳孝らとのミーティング)
心の壁を取り払えるかが連携のカギを握る(写真は後段にある朝日相扶製作所の関係者とのミーティング)

まず両業界の環境変化が激しいことから、改めて互いの置かれた環境を理解しなければなりません。対話の初期段階はかしこまった会議ではなく、ランチしながら定期的に近況を話すのがベストです。継続的な意見交換を通じて携帯電話でやりとりできるパートナーを見つけられれば連携の可能性は高まります。連携を検討する際に肝心なのは「すぐに実施するもの」がなくても焦らないことです。


金融機関は融資以外の新しい分野にこそ、特色が表れると感じます。自治体はそれを把握し理解に努める必要があります。相手を想い、理解するという過程を大切にする自治体は好まれ、金融機関の協力を得られやすいです。人に置き換えても同じことが言えるのではないでしょうか。その人を想ってコツコツ働いて買ったプレゼントは、価格以上の価値を生み出します。


両者の窓口となる「人財」同士の信頼関係を継続的に維持することも重要です。なぜなら、自治体も金融機関も他業界に比べて頻繁に人事異動が行われるためです。せっかく出会った「ウマの合う仲間」とは、担当を離れても対話できる関係を維持すべきです。できれば特命担当といったような形で、組織として戦略的に活用する制度があれば最高ではないでしょうか。担当を離れても培ってきたネットワークを駆使して地方創生に力を発揮できるような組織上の仕組みが設けられれば効果は大きくなると思います。



③ネットワークが生み出す効果



連携協定の様子

   


2022年4月の町長就任後、これまで培ったネットワークの効果を感じる出来事がありました。西川町では8年ぶりとなる企業誘致を、わずか3か月で成功させることができたのです。


私はここ2年で、金融庁、内閣府、内閣官房、西川町と職場を変えました。金融庁在籍時に知り合った荘内銀行営業推進部の渡邊浩文氏とは、互いに肩書が変わっても時々連絡を取り合っていました。彼は事業者支援ノウハウを学ばせてもらった人物であり、「頑張っていれば、誰かが見ていてくれる」という考えを共有できる仲間でもあります。


2022年4月末、荘内銀行に町長就任のあいさつに伺ったところ、彼は町の事情を「先回り」し、企業誘致の話題を提供してくれました。可能な範囲で教えてもらったところ、競争相手は4自治体で、進出地域で検討している事業内容も聞くことができました。


今度は、町が先回り。ライバルとなる自治体の企業誘致補助金、実施事業に活用できる補助金がないかを調査。次に同行と打ち合わせる際には、①新たな町独自の支援事業の企画内容(進出で得られる補助額がライバル自治体のなかで2番目の水準に)、②事業再構築補助金の申請に関する中央省庁との折衝を買って出る――という案を提示。1週間後に社長と会えた際には、町独自の企業進出補助金に対する考え方や事業に適用できる国の補助金について説明しました。社長の共感を得られた結果、3カ月後の7月には連携協定を結ぶというスピード決着となりました。


ポイントは企業誘致という匿秘の情報を得られたことです。これは互いに信頼がなければ成し得えません。また、ライバル自治体の動きも聞き出せたことで、スピード感と程度感を把握し、「先回り」できました。


個の「先回りする力」は定量化できないため軽視されがちですが、相手と連携するうえで最も大切だと私は信じています。そのためには、自分が相手の立場だったら、どんなことを求めるだろうと考えられる「想像力」を普段から養っておくことが必要です。“複業”などでの経験を通じて養えることもあります。このようなことは、金融機関か公務員かといった所属組織に関わらず、どんなビジネスにおいても生かされるのではないでしょうか。結局は、「人」なんです。


次回は1月15日公開予定です。


1回目はこちらから


 

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