【ニュースを読み解く】広島銀、MEJAR入りの波紋 共同化陣営の将来像 映す

2022.12.16 04:45
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ONベンダーによる共同化スキームの違い

広島銀行が11月、基幹系システムを横浜銀行など5行が利用する「MEJAR(メジャー)」に移行すると表明した。2003年から続く、ふくおかフィナンシャルグループ(FG)とのシステム共同運用に終止符を打つ形となる。異例の決断は何を示唆し、地方銀行界にどのような影響を与えるのだろうか。


起こりえなかった「くら替え」


「一番起こり得ないケース」――。地域銀行のシステム共同化に詳しい信州大学の山沖義和教授は、広島銀がふくおかFGとの「Flight(フライト)21」を抜け、MEJARへの合流を決めたことに驚きを隠さない。経営統合・合併要因を除いて地域銀がシステム陣営を乗り換えること自体が異例で、しかも今回は日本IBM系からNTTデータ系に移る点がさらに特異だという。


山沖教授によると、NTTデータ系はベンダーが作った共同センターを各銀行が利用するのが基本の形。それに対し、IBM系は銀行とベンダーでシステム開発・運用の共同出資会社を作る点に特徴がある。後者は運命共同体ともいえる仕組みで、「1行が抜けると運営上、問題が大きい」(山沖教授)。フライト21は開発・運用会社こそIBMの100%出資だが、所在地は広島銀の本店内だった(同社は7月に別のIBM子会社と合併)。


経営を圧迫するシステムコスト


こうしたなかで広島銀は何故、陣営を移ったのか。背景の一つとして、共同化から約20年が経ち、両者に「経営の方向性の違いが出てきた可能性はある」(東洋大学の野崎浩成教授)。ふくおかFGは21年に国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」を開業するなど、近年は地銀界でも戦略の独自性が目立つ。また、共通のライバルはともに隣接する山口フィナンシャルグループだが、「挟み撃ちにする必要性が薄れてきた面もあるのかもしれない」(同)。


もちろん直接的な理由は、地域銀にとって喫緊の課題である勘定系システムのコスト削減だ。金融庁のレポートによると、地域銀のシステムは構成要素がスパゲティのように絡み合う”密結合”などにより複雑化・肥大化し、追加開発や保守管理のコストが重い。地域銀の預金量に占めるシステム経費の比率は0・17%で、信用金庫の0・11%を上回る。ONメジャー表


MEJARは比較的新しい勘定系パッケージを使うため、密結合の悩みが解消されている。24年には共同化陣営で初めて汎用性が高いオープン系に切り替え、30年度にはクラウド化も予定。これにより、一段のローコスト運営が可能になる。クラウド化にあわせて共同利用を開始する広島銀の清宗一男頭取は11月の記者会見で、移行にかかる費用を償却した後は基幹系システムの運用コストが現状から4割減るとの試算を示した。


ただ、クラウド化を表明する共同化陣営はほかにもある。そのなかでMEJARの優位性はどこにあるのか。


幅広い連携 付加価値に


現状のMEJAR参加行は、コンコルディア・フィナンシャルグループの2行(横浜銀、東日本銀行)、ほくほくフィナンシャルグループの2行(北海道銀行、北陸銀行)、七十七銀行の計5行。その中核の横浜銀は自陣営の特色について、「(考え方が似通う)地銀上位行・グループの集まりのため意思決定が早い」(小貫利彦執行役員ICT推進部長)とし、大手地銀の一角である広島銀との親和性の高さを強調する。同行を含めて実質4グループ(6行)という数も、意見集約とコスト分担の両立には程よい。「NTTデータ系で唯一の銀行主導型」(同)のため、金融庁が問題視する「ベンダーロックイン=文末の【用語解説】参照」の懸念も小さい。


より俯瞰して見た場合、MEJAR5行は勘定系以外に連携範囲を拡大している点も特長だ。インターネットバンキングや営業・融資業務支援など周辺システムの共通化に加え、サイバー対策や外国為替業務、サステナビリティ商品の開発などでも協業を始めた。広島銀もアライアンス推進室を設置して参画を検討していく方針。横浜銀は、マーケティング分野などに強みを持つ広島銀の知見に期待を寄せる。


金融庁のレポートによれば、地域銀は勘定系を「非戦略領域」として簡素化し、運営コストの低減をめざす流れにある。裏返せば、そこにめどが付いた後は、「戦略領域」である周辺システムや、営業企画・バックオフィスなどでの連携メリットが共同化陣営の付加価値として重要性を増す。その意味で、広島銀の選択は共同化陣営の将来像をも見据えた「くら替え」の先行事例と見ることもできる。


システム再編 呼び水も


業界内では、「広い範囲の提携関係で完成度が高いのは(千葉銀行などによる)TSUBASA(ツバサ)」(野崎教授)という見方が定着している。実際、ツバサ陣営は基幹系を共同化したのは現状で3行だが、それ以外の分野で連携を強化することで有力地銀10行が集まる強者連合となった。MEJAR陣営も広島銀の加入で勢力を拡大する。地域銀の共同化陣営は15が乱立するが、競争力の差が鮮明になっていく展開は十分にあり得る。


気になるのは、広島銀の動きが呼び水となってシステム再編が活発化するかどうかだ。「共同化としてのまとまりを考えると銀行数を無尽蔵に増やすわけにはいなかい」(横浜銀の小貫執行役員)が、MEJAR陣営は門戸を閉ざしてはいない。コストメリットが出やすいオープン化やクラウド化に切り替わるタイミングを捉え、より魅力的な陣営への加入を目指す地域銀が今後出てくる可能性もある。


【用語解説】ベンダーロックイン=特定ベンダーにシステム運用を依存した結果、他社システムへの乗り換えが困難になること。金融庁のレポートによると、実際に移行を断念した地域銀も存在する。多額の違約金が生じる例もある。

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