広報のきほん。第4回 メディア人脈を厚くするはじめの一歩
2024.07.02 04:25前回は、話題の作り方やプレスリリースの基本についてお話ししました。今回は、情報整理を経てまとめた話題やプレスリリースを、自社のサイトやSNSに掲載するだけでなく、積極的にメディアに届けるための方法をお伝えします。
自社で蓄積したメディア(記者)リストに基づき話題を届けていけると理想ですが、広報をスタートしたばかりの企業はそうもいかないと思います。メディアとの人脈が乏しくても、ここからリレーションを構築する足掛かりとなる有効な手法をご紹介します。
実践!リリースをメディアに届ける3つの方法
予算をかけて幅広いメディアに届けたい
①プレスリリース配信サービスの活用
広報活動を始めたばかりの会社はまだメディアとのつながりができていないため、自社のメディアリストが不十分な場合があります。プレスリリース配信サービスは、オンラインやFAXで多くのメディアや記者に対して一斉に情報を届けることができます。サービスによってはプレスリリースの添削や掲載結果の分析をしてくれるものもありますので、初心者にとってとても心強いツールです。
多くのメディアや記者に一斉に情報を届けられるので、自社でメディアリストを構築する時間や手間を省く(楽をできる)メリットがありますが、1本あたり数万円の配信費用がかかることや、たくさんの企業が活用しているため、多くのリリースに埋もれてしまうリスクもあります。メリットデメリットを検討しながら、うまく活用していくことをお勧めします。
主なプレスリリース配信サービス
●PR TIMES https://prtimes.jp/
●@Press https://www.atpress.ne.jp/
●共同通信PRワイヤー https://kyodonewsprwire.jp/
●Value Press https://www.value-press.com/
予算をかけずに特定のメディアに届けたい
② 各メディアのプレス窓口へ直接連絡
各メディアのプレス窓口をチェックし、直接連絡する方法もあります。メディアのプレス窓口は、各社の公式ウェブサイトに連絡先が掲載されていることが多く、「お問い合わせ」や「プレスリリース受付」用のメールアドレスやFAX番号、専用入力フォームなどを探してリスト化しておけるとよいと思います。特定のメディアに、確実に情報を届けられることや、直接コミュニケーションを取れるというメリットがあります。
一方で、リサーチには手間がかかるのでリソースが限られている企業にとっては負担になる場合がありますが、リサーチを通じてそのメディアについての理解が深まり、一度リスト化すればプレスリリースのたびに活用できるので、取り組む価値はあります。
予算をかけずに主要メディアに届けたい
③ 主要メディアが常駐する「記者クラブ」へ情報提供
記者クラブは、各省庁や自治体の庁舎などに設置されている場所で、テレビ、全国紙、地方紙、業界紙、通信社など主要なメディアが加盟し、情報収集のための組織を自ら運営しています。主要なメディアに一度に情報を届けられるというメリットがありますが、記者クラブごとに情報提供基準が異なり利用できないケースがあったり、Webメディアやビジネス誌、週刊誌など記者クラブに参加していない媒体もあるので、届けたいメディアによっては利用がマッチしない場合もあります。
参考情報として、以下に金融系の記者クラブや、一般的な情報提供方法について記載します。
<企業が情報提供できる金融系の記者クラブ>
●日本銀行記者クラブ
日本銀行(日本橋本石町)にある記者クラブ。主に金融政策(金融政策決定会合や総裁の記者会見など)や銀行業界、保険業界の動きなどを取材分野とする記者が常駐しています。
●金融庁記者クラブ
金融庁(霞ヶ関)にある記者クラブ。金融庁の政策発表や金融機関の動きなどを取材分野とする記者が常駐しています。一般企業は情報提供できませんが、一般社団法人等の業界団体からの情報提供は受け付けています。
●兜倶楽部(東京証券取引所記者クラブ)
東京証券取引所(日本橋兜町)にある記者クラブ。上場企業の決算発表や市場の動き、証券業界などを取材分野とする記者が常駐しています。
●経産省記者クラブ
経済産業省(霞ヶ関)にある記者クラブ。経済産業政策をはじめとして幅広い分野を取材する記者が常駐しています。金融関連として、経産省が管轄している割賦販売法に関連して、クレジットカード業界やキャッシュレスなどの分野も関心範囲かと思います。
<記者クラブへのプレスリリース投函方法>
① 発信したい内容に応じて、どこの記者クラブへ情報提供するか決める
② プレスリリース発信より前に、記者クラブの代表電話(わからない場合は記者クラブが設置されている省庁代表電話)へ連絡し、情報提供したい旨を伝える
③ 各記者クラブの情報提供基準に沿って発信する
※紙での投函のみならず、最近ではメール対応可能な記者クラブも増えてきています。クラブによって方法が異なるので、必ず確認してください。
※情報解禁の指定ができるクラブ・できないクラブがありますので、その点もしっかり確認してください。
以上3つご紹介しましたが、どの手法にも共通して行っていただきたいのが、プレスリリースの「問い合わせ先」には、すぐに連絡が取れる問い合わせ先(広報担当者の携帯番号など)を載せることです。日々膨大な量のプレスリリースを受け取り忙しく情報収集をしている記者が、よりスムーズにコミュニケーションをとりやすいような配慮をできると良いでしょう。
メディアとの信頼構築のきほんは、「迅速・正確・誠実なレスポンス」!
プレスリリースを出して、メディアからの反応があった!嬉しい瞬間ですが、この時点でメディア側としてはまだ「関心を持った」段階です。このニュースは本当に報道価値があるのかどうか?どの切り口から取材しようか?いよいよ直接的なコミュニケーションが始まります。メディアからの関心をさらに高めて取材に繋げていくため、ここからが非常に大事なフェーズです。
記者さんたちと話していると、企業の広報担当に期待することとしてよく聞くのは、「何より、こちらからの問い合わせに対して、迅速・正確・誠実な対応をしてもらえると助かる!」というものです。
本連載でもずっとお伝えしてきた「情報整理」が、ここで大きく効いてきます。広報担当が普段から自社やサービスに関する情報を整理しておくことで、問い合わせへのスピーディな回答が可能になるのです。記者に聞かれてわからないこと・判断できないことがあっても決して先延ばしにせず、「いついつまでに確認するので待ってほしい」旨をメディアに伝え、社内のしかるべき部門や担当者に確認し、速やかに回答します。こうした丁寧で地道なコミュニケーションを積み重ねることで、メディアとの信頼関係が築かれていき、結果として報道機会への接点も増えていくのです。
このようなコミュニケーションを繰り返しメディア人脈が厚くなり、個別に相談できる記者との関係性ができてきたら、情報提供に対してのフィードバックを積極的にもらってみてください。フィードバックをもとにして、次回のプレスリリースや情報提供の際に内容を改善したり、報道価値を高める視点を加えることで、効果的な発信に近づいていくと思います。
「掲載件数」が全て?広報のKPIは
プレスリリースを発信した効果をどう測るのか?というのも、広報活動を考える上で大きなポイントになります。
報道件数や広告換算値で効果を測る方法は、一見わかりやすいように思えますが、実際は記事の質やトーンにより反響は異なりますし、記事の掲載にはタイミングやメディア側の状況など多くの変数に左右されることを考えると、やはり数だけで測るというのは無理があるように思います。
それではどのような測定方法があるかというと、例えばサービスに関するニュースを発信した場合に、問い合わせの増加や営業活動のしやすさの変化などを通じて測ることができると思います。問い合わせ件数が増えるということは、報道が多くの人に届いて関心を引いた結果です。また営業担当が提案をしやすくなるということは、報道を通じてその会社やサービスの信頼が高まった結果です。さらには、報道を通じた社員のモチベーション向上なども一つの広報効果として考えられるかもしれません。
広報活動は長期的な取り組みです。短期的な目標ばかりにとらわれることなく、その質を評価していけると、「社内外のステークホルダーとの良好な関係を作る」という広報の本来の目的に沿った効果測定につながると思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。
次回は、自社のメディアリストを増やすための、メディア勉強会等の施策について解説できればと思います。
◇ 過去の連載 ◇
konowa代表取締役/広報コンサルタント 黒﨑 美穂(くろさき みほ)氏
東京都出身。1998年早稲田大学商学部卒業。オリエンタルランドや大手商社系不動産デベロッパーにて経営企画室や広報部に従事。2016年よりフィンテック業界へ転向し、コインチェックなどスタートアップ企業のインハウス広報として広報立上げやメディアコミュニケーションに従事。2018年独立、企業向けの広報コンサルティングを行う株式会社konowa設立。金融業界を中心に60社超の相談実績を持つ。ビジネス経済・金融・IT系他のメディアとのつながりを基盤に、多くの支援先企業でTVや新聞などのメディア報道を実現。
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