広報のきほん。 第3回 記者に選ばれる話題やリリースの作り方
2024.06.04 04:25広報に託された社内ネタ探しの旅
前回は、広報活動を進めるために整えたい環境についてお話ししました。今回はネタ・話題づくりと発信がテーマです。一口に「ネタ・話題づくり」といっても、待っているだけで面白いニュースが広報部門に集まってくる場合は苦労ないのですが、そうはいかないケースも多くあります。その場合には、会社の中にある情報の中から、メディアが報道価値を感じるネタ・話題を掘り起こしていきます。
たとえば、開発部門が新しい技術やサービスを開発したとしたら、広報担当者がその技術の特徴や社会にどのように役立つかをスピーディに把握し情報を発信することで、競合プレイヤーよりも先にイノベーションへの取り組みを強く印象づけることができます。また、営業部門が大きなクライアント導入契約を成功させた場合などは、製品が選ばれた理由や導入で期待される効果、さらなる営業目標などをヒアリングし発信することで、市場での競争力を強調することができます。カスタマーサポート部門から「ある商品に対する問い合わせが急増している」という情報が入った場合、それは社会の動向を反映したネタとなり、メディアを通じて企業が追い風を受けていることを印象づけることができるかもしれません。
広報担当者がこのような情報をキャッチアップし、出せる情報・出せない情報をしっかり管理することで、自社に関するフレッシュでタイムリーな情報をメディアへ伝えることができるようになります。
「会社の中にあるすべての情報を完全に把握することは不可能!」と思われるかもしれませんが、まずはどの部門にどんな情報あるのか、社内の情報マップを整理することは比較的やりやすいのではないでしょうか。社内の情報マップは、ネタづくりやメディアリレーションズなどの広報活動の強力な武器になっていきます。
情報収集には各部門の協力がマストですので、〝広報に情報を集める価値〟を理解してもらいながら、定例ミーティングやレポートの共有など、部署間の協力体制を作ってください。
自社の話題を引き立てる!テクニック
総務省と経済産業省の調査によると、2021年時点ではありますが、日本全国の企業数は約370万社に上ります。毎日、数えきれないほどのプレスリリースが発信されており、その中でメディアに取り上げられるのはごくわずか。メディアの関心をひき、取り上げられる確率を高めるためには、話題をそのまま出すのではなく、ちょっとしたテクニックが有効な場合があります。
同じ情報でも、社会的なトピックと結びつけることで報道価値は大幅に上がります。単に新しいサービスを発表するだけではメディアの関心を引きにくいことがあります。しかし、この発表を何かの節目や社会課題、トレンドに絡めると注目度が上がる可能性があります。
例えば、今年は政府方針のもとで金融分野への世の中の関心は高まっています。新しい金融サービスを発表する際に、「政府の資産運用立国構想」に絡めて、一般生活者の資産運用に対する関心が高まっている背景を説明します。また、新NISAやインフレ、円安などの経済状況に触れ、そのサービスがどのように生活者の資産を守り、増やす手助けになるかを具体的に示します。このように、普段は難しくとっつきにくい金融サービスの発信も、新NISAやインフレ、物価高、円安、インバウンド動向、増加しているSNS投資詐欺、金融教育など、一般生活者が興味を持ちやすいトピックと絡めて話題を作ることで、より多くの注目を集めることができます。
・時事問題、社会課題と結びつける
・トレンドと結びつける
・季節やイベント、記念日などに結びつける
・信頼できるデータや統計と結びつける
効果的なプレスリリースを作るためのコツ
掘り起こしたネタや話題をいよいよ発信します。会社が話題を発信する方法はたくさんあります。記者会見、製品発表会、プレスリリース、ニュースレター、ブログやSNSなどのオウンドメディア、セミナーイベント、メルマガなどありますが、ここでは一番利用される「プレスリリース」について、基本構成と作成時の注意点をお伝えします。発信する話題について、「なぜ今なのか」「何が新しくて他とどう違うのか」「生活者やユーザーにどんなメリットがあるのか」をわかりやすく、印象的に見せることが重要です。① タイトル
タイトルは、一番最初に読まれる部分です。ここに報道価値を感じさせるインパクトのある数値や、今のトレンドに合った旬なキーワードを含めることで、よりメディアの目にとまりやすくなります。
② リード文
プレスリリースで伝えたいことを要約して伝えます。ここだけ読んでもある程度内容がわかるように、いわゆる「5W1H」をしっかり盛り込みます。
③ ビジュアル
プレスリリースの内容を表す象徴的な製品、シーンなどを掲載します。メディアに具体的な理解を深めてもらうために、フリー素材ではなく、独自の素材・実際の写真を用いることをおすすめします。
④ 説明文
リード文だけでは伝えきれないニュースの背景や経緯、目的、根拠(データ・統計)、今後の展開などを説明します。気をつけたいのは、「簡潔にわかりやすく」まとめること。表形式で情報を整理したり、グラフなどを用いることもおすすめです。プレスリリースは多くても2~3ページ程度でおさまるボリュームが望ましいです。メディアからの質問に答えられるよう、伝えきれない詳細については補完資料や想定問答集を準備しておきましょう。
プレスリリースについては、様々なテーマでハウツー本なども多く出ていたり、実際に記事化につながっている他社のリリース事例から学べることも多くあり、時間のあるときに調べてみることもおすすめです。
~Tips:話題をいつ発信する?「年間広報スケジュール」作成のすすめ~
話題を「いつ」発信するかを考えるときに便利なのが、「年間広報スケジュール」です。話題やニュースをいつ発信するか?自社の活動情報だけを追っていてもタイミングは定まりにくいので、社会が関心を持つような外部環境情報、いわゆる「時流」を見ながら計画を立てられるような時系列の表を作成します。
スケジュールには、年間を通じて、自社の取り組みに関連する重要な法改正や市場の動向、トレンド、業界イベントや公式な記念日などを前もって記載しておきます。私の場合は、日々新聞や業界紙を読んだり、業界の方、記者さんとの会話などを通じて、「世の中では今どのようなことに関心が集まっているのか」をキャッチするように努めています。
スケジュール表を通じて、担当者や部門間でニュース発信の内容やタイミングの認識を合わせながら進めることもできるようになりますので、合意形成がスムーズに進んだり、リソースを効率的に配分できたりと、効果的な広報活動に繋がっていきます。ぜひ作成してみてください。
今回もお読みいただきありがとうございました。次回は、メディアリレーションズのポイントや、広報の効果測定について解説します。
◇ 過去の連載 ◇
konowa代表取締役/広報コンサルタント 黒﨑 美穂(くろさき みほ)氏
東京都出身。1998年早稲田大学商学部卒業。オリエンタルランドや大手商社系不動産デベロッパーにて経営企画室や広報部に従事。2016年よりフィンテック業界へ転向し、コインチェックなどスタートアップ企業のインハウス広報として広報立上げやメディアコミュニケーションに従事。2018年独立、企業向けの広報コンサルティングを行う株式会社konowa設立。金融業界を中心に60社超の相談実績を持つ。ビジネス経済・金融・IT系他のメディアとのつながりを基盤に、多くの支援先企業でTVや新聞などのメディア報道を実現。
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