広報のきほん。 第2回 広報がうまく回らない理由
2024.05.07 04:25
広報コンサルティングという仕事柄、日々広報についての悩みや相談を受けていますが、最近では以下のようなものが増えてきました。
・広報担当を採用したいが、どんな人を採ればいいのかわからない
・新しい広報担当者を採用できたものの、日々の業務の進め方や評価基準が定まらない
・プレスリリースの反響が思ったほど得られず、その原因と解決策がわからない
・広報担当が競合との差別化につながるストーリー作りに苦戦しているようだ
・広報担当がメディアとコミュニケーションする際にすぐに回答できないことが多く、機会損失をしているようだ
・PR会社へ外部委託しているが、なぜだか機能しない
これらの相談に共通している問題点は、広報に求められる役割とポジションが組織内で明確化されていない、ということです。では、なぜ広報の役割とポジションを明確にすることが重要なのでしょうか。
その理由は、広報担当者は「情報」を最も重要な仕事のツールとして扱うからです。
広報担当者は、社内外のあらゆる情報を整理して、メディアをはじめとしたステークホルダーにストーリーを届けていきます。組織内では役割やポジションによって、アクセスできる情報の種類・活用できる範囲が大きく変わってきます。そのため、広報担当者がどのような役割とポジションを与えられているか次第で、世の中に発信できる情報の量や質が変わってくるのです。

整えるべき環境
そしてさらに「広報の役割・ポジション問題」を掘り下げると、実は組織レベルの課題が潜んでいることが見えてきます。広報が適切な役割とポジションを得て、情報をしっかりコントロールするためには以下のような環境を整える必要があります。
① 広報活動の目的が明確になっている。
② 経営層や部門責任者が、広報の役割について理解している。
③ 広報活動を行うためのリソース(人や時間、費用など)が確保されている。
広報活動の目的は、組織の規模や業種や成長フェーズによって異なります。大企業の広報部門はIR・コーポレート広報・プロダクト広報・採用広報など各役割ごとで分かれることが一般的なのですが、多くの中小企業では、少数(もしくは1人や兼務)の広報担当が複数の分野にわたって役割を担うケースが多くあります。会社からどのような目的・効果を期待されているかによって、動きかたや施策も変わってきます。会社と広報担当の認識を合わせて活動していくことが、より重要となってきます。
そして、経営層や部門責任者が広報の役割を理解していないと、情報の伝わり方とリソース配分の面で広報活動に支障をきたします。広報担当が経営戦略などの情報を適切なタイミングで受け取れないことで、広報活動が全体の戦略と一致しない状況を招き、インシデントが発生した際に適切な情報発信ができずに企業の評判に傷をつけてしまうことも考えられます。
また、広報活動ではイベントやオウンドメディアなどといった工数や費用がかかる施策も定期的に発生します。こういった活動を見込んで必要なリソースが確保されないと、広報担当者は非常に多くの仕事を抱え込み、過度な負担がかかります。良い施策アイデアや戦略が実行できず機会損失につながることも考えられます。
このようなことから、 最初のお悩みへの回答としては、採用基準の話で言えば、情報が入りやすいポジションへの着任を前提とした上で、「経営や現場の情報をしっかり取り入れることのできる視点やコミュニケーション能力を持ち、世の中の情報にもアンテナを立てる知的好奇心を持っていて、それらの情報を編集してプレスリリースに落とし込める人。業界の慣習やステークホルダーに関する用語に通じていたりすると尚良い」といった条件になるかもしれません。
また、ストーリー作りやメディアとのコミュニケーションに苦戦しているお悩みは、広報担当者が正確かつ最新の社内外情報を持っていないことが、効果的なアウトプットやスムーズなコミュニケーションを妨げているケースが多くあります。このため、社内で広報担当者の役割とポジションを再確認し、情報が適切に取れているかを確認することが重要です。
そして「PR会社が期待通りに機能しない」問題、実際は色々な原因が考えられますが、そのうちの一つとして社内から適切な情報を提供がされていないケースがあります。これが原因で、PR会社が本来持つネットワークや知見を使いきれないばかりかメディアとのミスコミュニケーションを招いてしまうこともあり、その結果、コストに見合った効果を得られていないと感じるケースが発生することがあります。
伝えたいストーリーと社会とのズレ
第1回目にて、広報の大きな目的は「企業の評判・信頼を高め、ポジティブなイメージを維持していくこと」だとお伝えしました。広報担当は、自社の広報活動の目的を把握した上で、社内外の情報を収集整理し、計画とスケジュールを策定した上で、様々なコミュニケーション手法を通じて、世の中にストーリーを発信していきます。

情報を発信するための準備として、発信チャネル(ツール)の確認も大事なステップです。発信チャネルは、コーポレートサイト、サービスサイト、ブログ、SNS、メールマガジンといったオウンドメディアから、社内報、活用できるプレスリリースの配信プラットフォームや、イベントの機会なども該当します。そのチャネルを組み合わせながら、リズムよく発信の計画を立てていくことが重要です。
認知度のまだ低い会社が広報を取り組む際に重要なのは、「発信する情報の量と質を高める」ことです。
ニュースや話題を作れないことが原因で発信量が少なすぎると、会社の成長が停滞しているような寂しい印象を与えてしまいます。広報担当が社内から情報をしっかりと集め、定期的に会社の活動を発信していくことが大切です。
そして、量よりも大事なのが「質」です。
広報担当は、集めた情報をもとに会社が伝えたいイメージに沿ったストーリーを構築しますが、そのストーリーが、一方的で我田引水なものだったり、正確性に欠けていたりすると、当然世の中には受け入れてもらえません。このような情報をたくさん発信してしまうと、メディアに刺さらないことはもちろん、社会の温度感とズレている〝裸の王様〟が出来上がってしまいます。
社外(社会)にも常にアンテナを立てることで、作ったストーリーが世の中に求められているものなのか、時流にマッチしているのかを考えながら、社内の関係者を巻き込みながら世の中に伝えていきます。社会からの反応の良し悪しによって、そのインサイトを社内へ持ち帰り、方針やストーリーの軌道修正を促すのも大事な仕事です。
次回は、広報担当のつまずくポイントと、プレスリリースづくりの実践などについて解説します。
◇ 過去の連載 ◇
konowa代表取締役/広報コンサルタント 黒﨑 美穂(くろさき みほ)氏
東京都出身。1998年早稲田大学商学部卒業。オリエンタルランドや大手商社系不動産デベロッパーにて経営企画室や広報部に従事。2016年よりフィンテック業界へ転向し、コインチェックなどスタートアップ企業のインハウス広報として広報立上げやメディアコミュニケーションに従事。2018年独立、企業向けの広報コンサルティングを行う株式会社konowa設立。金融業界を中心に60社超の相談実績を持つ。ビジネス経済・金融・IT系他のメディアとのつながりを基盤に、多くの支援先企業でTVや新聞などのメディア報道を実現。
関連キーワード
おすすめ
アクセスランキング(過去1週間)
- 地域銀7行が先行導入 マネロン機構のAIスコア
- 金融5団体と商工中金、適正な競争へ新枠組み 過去の民業圧迫踏まえ
- 春の叙勲 金融界から24人
- 地域銀・信金、取引先の経費削減支援 コンサル会社と連携拡大
- 京都信金、職員向け「京信大学」200回 講座受講者、延べ4000人超
- 十八親和銀、投信客への架電デスク新設 7万先にアプローチ
- Techで変える(2)宮崎銀、融資稟議書作成を自動化 業務時間は95%削減
- 大手損保、地銀の窓販デジタル化 火災保険、満期急増で
- 日銀、政策金利を据え置き トランプ関税で海外経済減速見通し
- SMBC日興証券、25年3月期純利益727億円 純営業収益はSMBC入り後過去最高