マーケット・トレンド(為替) 購買力平価に基づく円高修正は機能不全に
2023.11.01 04:25
ドル円は10月に入って以降、年初来高値圏でもみ合うなか、ジリジリと値を上げ、150円台に乗せてきた(10/26執筆時点)。中東情勢の緊迫化も、かつての円であれば「リスク回避の円買い」につながったが、足元は全くといっても過言ではない程にそうした動きはみられない。
ドル円は1月安値の127円台から20円以上もドル高円安が進み、昨年高値の151円90銭台に迫る勢いにある。こうしたなか、ちまたでは購買力平価と実勢レートの乖離(かいり)を持ち出し、ドル円はいずれ円高に向かうとの理論展開を耳にする。
購買力平価とは為替レートは異なる通貨の購買力が等しくなるように決定されるとの考え方だ。例えば、米国では1ドルで買えるハンバーガーが日本では100円で買えるとするとき、1ドルと100円では同じものが“買えるはず”なので、為替レートは1ドル=100円が妥当となる。
だが、実際の為替レートは金利差や貿易・経常収支、潜在的な経済力、財政収支の違いなど、多様な要因の影響を受けて決定される。
特に近年では貿易・サービス収支の赤字常態化を背景とした円売り超過の需給環境が続いている。また、日米のインフレ率が拮抗(きっこう)する状況にもかかわらず、日本は世界で唯一マイナス金利政策を続けるなど、需給や金利のベクトルは円安方向を向いている。
長期的に実勢レートが購買力平価に収束することはあっても、足元では購買力平価の考え方は機能していないとみるべきであろう。
東海東京調査センター投資戦略部グローバルストラテジーグループ 金利・為替シニアストラテジスト 柴田 秀樹氏