関東甲信地区地銀、地域医療を支える 未来に向けた提案強化

2023.09.29 04:39
インタビュー 厚生労働省 事業者支援
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山梨中央銀行コンサルティング営業部内の会議で人材紹介やM&Aなど他チームとも議論を重ねる医療担当の藤原優芳主任調査役(左、9月14日、同行)
山梨中央銀行コンサルティング営業部内の会議で人材紹介やM&Aなど他チームとも議論を重ねる医療担当の藤原優芳主任調査役(左、9月14日、同行)

高齢化が進み、人口減少が顕在化するなか、地域医療のあり方が問われている。地域の課題解決を支援する地方銀行にとっても重要なテーマだ。人口推計から2025年に必要となる病床数を機能ごとに算出した地域医療構想が各都道府県で進む。厚生労働省は22年12月、同構想の医療機関向け勉強会の実施について全国地方銀行協会などに協力を要請。持続的な地域医療体制の構築を支える関東甲信地区地銀の姿を追った。


高い専門性へ対応工夫

医療・介護に関する案件は専門性が高い。各行は、営業店での対応に限界があると見て、以前から医療専門チームを組成し対応している。こうした医療案件に対応する部署では、外部の事業者と情報交換などを通じて関係を深めている。たとえば、筑波銀行では、医療分野に強いコンサルティング会社と2、3カ月に1、2回のペースで面談を実施。また、会計士事務所2社、医薬品の卸売業者4社のほか、医療機器メーカー数社とも関わりを持っており、開業希望者の情報収集を行っている。


コロナ後、増加開業案件

地方では人口減もあり、病床が過剰となる一方、都市部ではまだ医療需要が増加するなど、開業を取り巻く環境は地域によって大きく異なる。都市部の銀行では、コロナ禍の終盤あたりから開業案件が増えてきているという。千葉興業銀行営業支援部の眞田心哉部長代理は「感覚としてはコロナ禍前の1.5倍。コロナ拡大で開業控えが起きていたのでは」と話す。実際、千葉県は23年3月、25の医療機関に対し約1800床の新たな病床配分を実施したことを公表している。


一方、病床が過剰となっている地域もある。常陽銀行コンサルティング営業部の高木一誠主任調査役は「特定の診療科目以外では、増床について許可が下りない」と指摘する。しかし、茨城県の人口あたりの医師数は、埼玉県に次いで全国で2番目に少ない。同行は、ホームページに「クリニック開業相談」の申し込みフォームを設置。開業希望者が直接、銀行に相談できる環境を整え、ニーズに応えられるよう体制をとっている。


課題多い〝承継と廃業〟

社会全体の高齢化に伴い、医者の数は減少している。医療チームの課題の多くは後継者不在による事業承継だ。しかし、医療法人の理事長は医師に限られるうえ、地方での開業・承継の希望は少ない。それでも、近年は、地方でのM&A(合併・買収)関連の相談が増加しているという。


山梨中央銀行でも、東京方面でニーズが多かったが、最近では山梨県内でも相談が増加。新規開業の資金需要に対してもM&Aの割合が増えている。同行コンサルティング営業部では、担当の垣根を超えた活動を目指しており、医療チームが受けたものであってもM&Aや補助金のチームと連携して総合的に対応している。


M&Aニーズ増加の一因として、いくつかの銀行は出資持ち分の問題を指摘する。07年の医療法改正前に設立された医療法人では、出資者が出資額に応じた財産権と返還請求権を持つ。数年たって出資金の評価額が上がると、出資者死亡の際の相続税が高額になり、税納付のために相続人が返還請求権を行使することも想定され、医療法人は経営に支障をきたしかねない。仮に相続人が請求権を放棄しても、医療法人が経済的な利益を取得したとみなされ、贈与税がかかる。


また、個人開業医には廃業に伴うリスクがある。医者が個人事業主の場合、死亡や引退の際に廃業の手続きをとる必要がある。武蔵野銀行では、1年以上の実績のうえで法人成りができるという埼玉県のルールに沿って、新規開業者には1年をめどに法人化を勧めている。しかし、法人化すれば県への決算の報告義務が生じるなど医療機関側の負担が増加することもあり、丁寧な説明を心がけているという。


〝持続可能〟な機能策定

群馬銀行は、1980年代後半の病床規制導入前に建設された病院が、建て替え時期を迎え始めていることを指摘。「二次医療圏ごとの必要病床数が示されているなか、建て替えは病床機能を見直す機会である」と、機能転換のタイミングについて考える。実際に建て替えを検討している医療機関には、事業計画策定段階から審査担当者が関与し、持続可能な地域医療の提供に向けた方向性を共有する方針をとる。



シーズワン出資時のセレモニーに参加する(左から)きらぼしコンサルティング中野良明社長、東京きらぼしFG渡邊壽信社長、シーズ・ワンの大石佳能子代表取締役、東急不動産ホールディングスの植村仁代表取締役副社長(4月20日、渋谷区、メディヴァ提供)
シーズワン出資時のセレモニーに参加する(左から)きらぼしコンサルティング中野良明社長、東京きらぼしFG渡邊壽信社長、シーズ・ワンの大石佳能子代表取締役、東急不動産ホールディングスの植村仁代表取締役副社長(4月20日、渋谷区、メディヴァ提供)

きらぼし銀行医療・福祉事業部の上原敦執行役員部長は「実際には機能別で病院が存在するわけではない」と話す。東京きらぼしフィナンシャルグループ(FG)は4月「コミュニティ・ホスピタル」構想を推進する医療介護専門のコンサルティング、メディヴァ社の子会社シーズ・ワンに出資した。構想では、経営状態が悪化したり、後継者不在に悩んだりする中小病院を医療や介護、生活支援までを包括的に提供する施設へと転換する。


他県に比べて、公的病院が多い長野県。八十二銀行は、従来の構想が民間の実態を反映しきれていない部分があると仮定し、独自の地域医療構想を策定した。経営改善の相談が来た際に、その地域に足りない機能への転換を提案するなどの活用方法を想定している。


厚労省が要請している勉強会について、関東甲信地区の金融機関も動き始めた。足利銀行は栃木県の医療政策課と7月から議論を開始。セミナーの開催についても検討を始めた。建て替えや病床転換に関する県の補助金について周知が不足している現状から、銀行が窓口となる考え。また、山梨中央銀行は11月の開催に向けて、県の医務課と協議を進めている。



 
「地銀の力を借りたい」 厚労省・有木課長補佐に聞く

各地での勉強会に関して、金融機関に周知依頼を出した厚生労働省。その狙いと金融界に求めるものについて、医政局地域医療計画課の有木悠一朗課長補佐に聞いた。



厚労省・有木悠一朗課長補佐
厚労省・有木悠一朗課長補佐

9月末までに勉強会の開催可否を報告するように各都道府県に要請している。厚生労働省としては、民間医療機関を巻き込んだ地域医療構想を模索中だ。伊予銀行が愛媛県と勉強会を実施しており、民間の医療機関との協力に際して参考にした。


基本的には、都道府県側が民間医療機関や各医師会に主体的に呼びかけることを想定しているが、行政と医療機関の関係が希薄な地域では、接触機会の多い金融機関を通じてアプローチできると考えた。今後、地域医療構想を進めていくうえで、国の補助金などが設けられる可能性があり、民間医療機関への資金提供も含め、地銀の力を借りるのは意義があると考えられる。


地域医療構想とは、将来における地域ごとの医療需要を算出して、医療機関に行動変容を促していくものだ。医療機関が将来の医療需要の傾向などを認識し、その需要に対応するのは金融機関にとっても将来の資金需要予測の最適化につながると考えている。


 

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