【Nikkin事件簿】SMBC日興証券・元幹部の第2回公判、相場操縦が「安定操作」に該当するかが争点に 取引当日の音声を法廷で検証

2023.06.23 04:30
株式市場 事件・不祥事
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SMBC日興証券の元幹部5人が相場操縦の疑いで金融商品取引法違反に問われた裁判の第2回公判が6月22日、東京地裁で開かれ、無罪を主張する被告側と検察側の争点が浮き彫りになった。2019~21年に同社が株式市場で大量の買い注文を出した10銘柄の取引が「安定操作」に該当するかが今後最大の争点となる。この日は、検察側が証拠として提出した音声データが法廷で流され、被告らによる生々しいやり取りの模様が明らかになった。


          ◇


最近の金融関連事件では最も注目度の高い裁判とあって、開廷前には約90人が一般傍聴の抽選の列に並んだ。第2回公判は、最初に弁護側の冒頭陳述を行い、その後に証拠の取り調べに進んだ。これまでに約400点の書類や供述書、メール、音声などが証拠として採用されており、検察側と弁護側がそれぞれ提出した証拠の内容について概要を説明した。検察側の証拠には、証券取引等監視委員会による関係者との面談記録も含まれている。


「故意」と「共謀」の認定がカギに


被告はいずれもSMBC日興証券の元幹部で、元副社長の佐藤俊弘被告、元エクイティ部長の山田誠被告、元専務執行役員のヒル・トレボー・アロン被告、元執行役員のアバキャンツ・アレクサンドル被告、元部長の岡崎信一郎被告の5人。外国籍の2人のために、公判は同時通訳で行われた。


争われているのは、大株主の保有株を市場外で買い取って投資家に転売する「ブロックオファー」取引(文末の【ことば解説】参照)を巡る行為。19~21年に同取引の対象となった10銘柄について、市場が閉まる直前に同社が自己資金で大量の買い注文を入れて終値を安定させる相場操作をしていた疑いが持たれている。


被告らは株の買い付けを行ったこと自体は認めており、10銘柄の買い注文が「安定操作」に該当するかが焦点となる。それを判断するうえで、取引終了直前の大量の売り注文が被告らの指示によって行われたものなのか、また株価を維持する目的で行われたのかという「故意」と「共謀」の認定がカギとなる見通し。


安定操作は人為的な相場形成であり、相場操縦行為として禁止されている。ただ、有価証券の募集や売り出しなどにより、大量の証券が一時に市場に放出されるなど、一定の要件の下では金融商品取引法で認められている。



東京地裁

証拠の音声、生々しいやり取り


証拠の取り調べでは、検察側の証拠として採用された電話などの音声データが、法廷でそのまま流された。音声はいずれもブロックオファー取引の対象銘柄が大幅に値下がりしている状況下で、被告らが買い支えるための買い注文について協議や報告をしている内容だ。


音声の内容は「(小糸製作所株を)買い支える方向で調整している」、「(モスフードサービス株が)朝から6%ほど下がっている。引けのところで買おうかな」、「(ジンズホールディングス株が)5%くらい下がっている。下がりすぎだよ、ちょっと買おうか。うちが支えようよ」、「(アズワン株を)個人(投資家)がネット証券で売り叩いている。ピュッと買って(下落率を)8%くらいに戻したが、うちが買わなければ(下落率は)13~14%だった」など。「毎回コントロールしているが、気を付けないと金融庁にやめろと言われかねない」という趣旨の発言もあった。


証拠採用されたLINEメッセージでは、「(大正製薬ホールディングス株が)5%強下がっているので、これ以上、下がるようなら午後に出動します」などのやり取りが法廷のモニターに映し出された。


次回公判から証人尋問スタート


第3回公判は7月13日で、次回から証人尋問が始まる。現時点で計20人の証人を決定しており、7月25日に第4回、9月中に第5回と第6回の公判を予定している。その後も、年内に「かなりの日数」(神田大助裁判長)の公判候補日を押さえており、今後の進展が注目される。


 


【ことば解説】ブロックオファー


ある銘柄の大株主が保有株を売却する場合、市場で大量の売り注文を出すと株価が急落しやすい。そのため、市場が閉まった後に当日終値から一定割合のディスカウントをした価格で売却する手法がある。その一つがブロックオファーであり、証券会社が自己勘定で大株主から買い取ったうえで、その後に別の顧客に売却する。


ブロックオファーは、取引執行の2日前までに証券会社と大株主の間で契約を結び、執行の前日に証券会社から購入顧客に告知される。執行日の大引け後にブロックオファーが行われるが、その前の取引時間中に市場で空売りを仕掛けて株価が下落すれば、購入顧客はほぼ確実に利益を得られる。


その一方で、株式を売却する大株主の利益は減ることになるため、ブロックオファー取引がキャンセルになるケースもあるようだ。今回の公判では、大株主の損失拡大を防いだり、大株主によるキャンセルを避けるために、SMBC日興証券が大引け直前に買い注文を入れて株価を下支えしようとした疑いが持たれている。


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