「再生と成長 しっかり支える」全国銀行協会・半沢会長 

2023.01.01 04:50
インタビュー 全銀協
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コロナ禍からの経済再開が本格化してきた。地政学リスクや世界的なインフレ加速、各国中央銀行の金融政策変更などさまざまな不透明要因が横たわるなか、金融界には企業の再生・成長支援などへ期待が大きい。全国銀行協会の半沢淳一会長(三菱UFJ銀行頭取)に2023年の展望を聞いた。


ゼロゼロ融資  返済ピーク


――22年の振り返りと23年の見通しを。
 「22年はロシアのウクライナ侵攻、世界的なインフレ加速や各国の大幅な金融引き締めなど、歴史的にも変化が大きい1年だった。一方で、我が国ではウィズコロナを前提に、経済活動の正常化に向けた動きが着実に進展した。10月には円が一時約32年ぶりとなる1ドル=151円台まで下落したが、12月には130円台前半まで円高方向に戻した。23年は新しい資本主義の確実な実行により、重点分野への投資が加速され、景気が成長軌道に乗ることを望む」


――中小企業の資金繰りや事業再生への支援にどう取り組むか。
 「銀行界はコロナ禍の初期から一貫してお客さまの資金繰り支援に最優先で取り組んできた。22年11月末の全国銀行貸出残高は557兆円で、コロナ拡大前の20年1月末と比較して10%増加、前年同月比でも4.2%増加した。今後は回復局面になるが、経済活動はまだコロナ前の水準に戻っていない。足元の原材料・部材・エネルギーの不足・調達価格の高止まりや円安が、幅広い業種で財務や資金繰り面の圧迫要因になっている。そんななか、いわゆるゼロゼロ(実質無利子・無担保)融資の民間金融機関によるものは23年以降に返済のピークを迎える。政府も今後への備えとして、借換保証制度を創設することを閣議決定されたと聞いている。銀行界は、引き続き財務・非財務の両面で、お客さまの収益力回復や事業再生をしっかり支える」


――スタートアップの育成は。
 「日本経済のダイナミズムと成長を促し国際競争力を回復するため、社会全体で取り組むべき重要なテーマ。銀行界に最も期待されているのは資金供給であり、中期的な事業価値と将来性を踏まえた支援が求められている。事業性・成長性を見極める力を高めるとともに、リスクに応じた金利設定や融資形態を確立していく。成長局面では内部管理体制の強化などいろいろな人手も必要となってくる。出向などの形で支援するほか、銀行の幅広い取引基盤を生かしたビジネスマッチングにつなげるなど、資金面以外でもしっかり支援する」


仕組み債  85行販売見直し


――仕組み債問題にはどう対応するか。
 「仕組み債に限らず個々の金融商品の販売方針は各行が判断することだが、FD(フィデューシャリー・デューティー)原則に示された『お客さまの最善の利益の追求』に向けて、いま一度基本に立ち返る必要がある。お客さまの投資経験や資産背景、ニーズの正しい理解を起点に一人一人にふさわしい商品・サービスを提供し、販売後も適切なフォローに取り組む。そのサイクルをしっかり回していくことが重要だ」
 「全銀協では、新たに顧客本位検討部会を設置し、販売実態の把握と顧客本位の業務運営の再徹底を図っている。会員行宛てに仕組み債をはじめとするリスク性商品に関わるアンケートを実施したところ、想定顧客や販売方針にバラつきが見られた。資産背景による傾向としては、EB(他社株転換可能)債は保有資産が大きい顧客への販売額が大きく、為替連動型、株価指数連動型の仕組み債は幅広い資産背景の顧客に販売されていた。情報開示の観点では、外貨建て一時払い保険の重要情報シートの作成は進んでいるが、仕組み債、ファンドラップを作成済みの銀行もあれば、作成検討中や未作成の銀行もある。仕組み債を販売する89行のうち85行で販売体制の見直しが行われていた。全銀協としては、会員行が自律的に販売体制の適正化を図れるようアンケートなども通じて引き続きサポートしていく」


課題解決の「主人公」に


――規制緩和については。
 「21年11月の銀行法改正で、銀行グループとして非金融を含む幅広い業務を営むことが可能になった。また、22年6月にはファイアウォール規制が緩和された。各銀行が自らの戦略や地域特性、リソースを踏まえて、実際に新しいサービスを提供しようと活発に動いている。ファイアウォールについて残された規制もぜひ緩和して頂きたい。それが企業と家計の間の好循環を通じて日本経済の成長につながっていくと思う」


――若手バンカーへメッセージを。
 「銀行をとりまく環境変化がここまで大きく早いのは、私の30年以上の銀行員生活で初めて。若手の皆さんには、その変化に応じて、お客さまの課題や社会課題を解決していく主人公だという強い気概、強い自負を持って行動してもらいたい。お客さまや社会の課題解決を通じて、日本経済の成長に一緒に貢献していきましょう」

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