銀行店舗が「スイーツ市場」に大変身 金庫には1本1万円の熟成ケーキ 旧山梨中央銀行後屋支店
2022.12.19 04:40
山梨県のJR甲府駅から車で15分程度の住宅街のなかに、菓子専門店がオープンした。店内にはケーキ、焼き菓子、和菓子が所狭しと並ぶ。工房を併設しており、焼き立てのアップルパイやマロンパイ、みたらし団子などを購入できるのが特徴。さらに建物2階のイートインスペースで、こうしたスイーツをすぐに楽しめるのも人気の理由だ。土日には1日平均で300~400人が来店するほど、地域で親しまれている。この建物は、もともと山梨中央銀行の旧後屋支店。菓子専門店を営む「シャトレーゼ」(山梨県甲府市)が2022年1月、「シャトレーゼマルシェ甲府後屋」としてリニューアルオープンさせた。全国的に金融機関の店舗統廃合が進み、空き店舗が増加傾向にあるなか、活用がなかなか進まないのが現状だ。銀行店舗の特徴を生かして、地域で存在感を示す事例を取材した。

シャトレーゼマルシェ甲府後屋は店内にケーキ、洋菓子、和菓子の工房を備え、450種程度の商品を揃える。来店客はマルシェ(市場)を訪れたときのように「香ばしい香りが漂う店内で、ワクワクしながら買い物を楽しめる」(中島史郎広報室長)のがコンセプト。こうした店舗形態は、同社が国内で展開する710店舗(2022年10月末)のなかでも唯一だ。
人気商品のアップルパイやマロンパイは、店内で焼き立てを提供する。「マロンパイが好きで、店に毎月足を運んでいる」という女性客もいるほどだ。オーブンを置いているスペースは以前、ATMコーナーだった。道路側に面したガラスをそのまま生かし、作業のライブ感が店外にも伝わるようにしたという。

旧銀行店舗に必ず存在するのが巨大な金庫だ。現在は、同社ワイナリーで製造したワインの売り場に姿を変えた。さらに、全店で唯一取り扱う「熟成ブランデーケーキ」の熟成庫としての顔も持つ。焼き上げたケーキを洋酒に浸した布でくるみ、セラーで熟成させるスイーツで「じっくりと時間をかけることで余分なアルコール分がなくなり、コニャックの風味が濃縮したまろやかでしっとりとした味わいになる」(中島広報室長)。価格は1本で1万円(税別)。インターネットの限定販売では70本が即売したという。

2階のイートインスペースは、かつて銀行の会議室や書庫、ロッカーだった場所。改装して、新たに38席を用意した。店内のスイーツのほか、同社グループのレストランで提供しているカレーやピザ、郷土料理「ほうとう」なども楽しむことができる。食事をしていた女性は「くつろげる雰囲気で、よく利用している」と笑顔を見せた。

シャトレーゼでは、出来立ての洋菓子や和菓子を提供する店舗を今後増やす計画だ。今回の店を次世代型店舗に位置づけて、顧客との新たな関係づくりに力を入れている。
建物を譲渡した山梨中央銀行は「銀行の遊休不動産を売却処分するだけにとどまらず、地元企業の発展や地域社会の活性化にも資する新たな活用方法を見いだす契機になった」(総務部管財課)と振り返った。

【インタビュー】銀行の空き店舗に強い関心
シャトレーゼ
執行役員 企画統括部長 白須 暁 氏に聞く

――シャトレーゼマルシェ甲府後屋の特徴は。
通常店舗では工場で製造した商品を販売することが中心だが、この店舗は出来立ての商品を提供できるのが強みだ。アップルパイやクッキー、みたらし団子などを選ぶ楽しみがある。例えば、みたらし団子は注文を受けてから丁寧に直火で焼き、こだわりのたれにくぐらせる。多いときで1日に500本売れる人気商品だ。
――銀行の旧店舗を活用した理由は。
現店舗の地域で物件を探していたところ、山梨中央銀行から旧後屋支店を譲渡する話があった。当社は以前からファミリーレストランやコンビニエンスストアの居抜き物件を活用してきた実績があり、地域のために何かできないかとの思いで購入した。
――銀行店舗は巨大な金庫があるなど、使い勝手が悪いとの指摘もある。
銀行の旧店舗を活用するのは、今回が初めてだ。そもそも飲食や物販をやる建物ではないので、受電設備を増やしたほか、給排水やガスの設備なども整えた。2階をイートインスペースに改装するにあたり、来店客を誘導する通路が必要になった。しかし、銀行の店舗は建物の裏側部分に行員向けの階段があるため、使い勝手が悪い。そこで表の道路側に面した2階部分の床を抜いて、新たに階段を設けた。建物が頑丈な構造なので、工事は大変だった。金庫については、その特長を生かしたいと考えて、ワインや熟成ブランデーケーキの貯蔵庫とした。ただ、金庫の扉は重量があるため外すことが容易ではなく、業者がかなり苦労したようだ。金庫の扉は現在、記念として当社の倉庫に保存している。

――銀行の旧店舗を活用するメリットは。
地域での高い認知度だ。「銀行が(かつて)あった場所」というだけで、地域の人はだいたい理解してくれる。立地がよく、アクセスをしやすいという点もある。
――全国的に銀行の空き店舗が増加しているが関心は。活用する際のポイントは。
当社は全国で展開しており関心は強い。重視するのは、道路に面する間口の広さだ。郊外にある当社店舗には車で来店する人が大半で、なかには運転が得意ではない人もいる。そのため、車の入り口の幅は20~30メートルあることが理想だ。さらに言えば、片側1車線の生活道に面しているほうがよい。また敷地を道路側から見た際、駐車場が手前に位置していれば、車で来店しやすいと考えている。すでに、山梨中央銀行から別の店舗を譲り受けており、2023年以降にリニューアルオープンする計画がある。
(聞き手=岩佐 昌洋)