鹿児島銀、動産価値の算出システム外販へ 「牛」担保管理を容易に
2022.06.13 04:52
鹿児島銀行は、肉用牛など動産担保の価値を算出するシステムの外販に乗り出す。畜産業向けの動産担保融資(ABL)に欠かせない牛の在庫管理機能に加え、事業者の経営状況を分析する機能も備える。国の制度でトレーサビリティ(生産流通履歴)が確保できる乳用牛にも活用でき、営業エリアで畜産や酪農が盛んな地域銀行などのニーズを見込む。
共同開発したサザンウィッシュ社と最終調整に入る。動産担保を不動産と同様の一般担保として扱う場合に欠かせないシステムだ。販売先には「10年超にわたって蓄積したノウハウを提供する」(アグリ事業開発室)ことも視野に入れる。同行のABL残高(22年3月末)は約370億円で、肉用牛を担保にした融資が9割近くを占める。システムは現在、65先が利用する。
外販するシステム「アグリプロ」は肥育牛や繁殖牛の頭数、生産コストなどをもとに担保価値を割り出せる。事業者にとっては借入可能額を把握でき、資金繰り計画が立てやすくなる。
ABLの実行は畜産農場で飼育される頭数の動態を正確に捉えられるかがカギを握る。肉用牛や乳用牛は牛トレーサビリティ法で農林水産省所管の家畜改良センターに登録が義務づけられる。10ケタの個体識別番号を使って生産から流通、消費まですべての過程で一元管理される。畜産事業者がアグリプロに登録した情報は同センターのデータと自動照合し、在庫頭数を正確に管理できる。
畜産事業者が経営課題を洗い出しやすい機能も備える。5月23日にシステムを刷新し、経営分析機能を強化した。1頭平均の売却価格や高格付け牛の出荷割合などを算出し、グラフで表示する。同行は蓄積したデータを使い、ニーズに応じて有償のコンサルティング業務にもつなげる。
畜産事業者の経営は牛の頭や内臓などを取り除いた「枝肉」の売却価格に左右される。日本食肉格付協会が判定する格付けが大きく影響する。高格付けの割合が低ければ改善策を提案する。「死亡率の高さが課題に浮かび上がることもある」という。
行内では「一般担保」化に踏み切る
同行は一定の条件を満たせばABLで担保とする「牛」を一般担保扱いとすることを決めた。4月に行内規定を見直し、6月末時点の自己査定に初適用する。一般担保扱いにするには、牛の耳や畜産農場に同行名を表示するなど、第三者対抗要件を満たす必要がある。
これまでは「副え担保(そえたんぽ)」とみなし、ABLは信用貸しとの位置づけだった。万が一、経営悪化すれば引き当ての負担が生じる覚悟でリスクテイクしていた。一般担保化できれば従来より融資しやすくなる。
一般担保扱いは最終的に担保の牛が売却できなければ難しい。同行が顧客網を駆使した担保処分スキームを一定程度、確立していることも一般担保化を支えている。