【ニッキン70周年企画(10)】野村グループ、データ共有の壁に挑む
2025.08.16 04:40
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日本金融通信社(ニッキン)は2025年8月27日、設立から70年を迎えます。本紙第1号が発行された1955年は、戦後復興を遂げた日本が高度経済成長期に突入する転換の年でした。あれから70年。急速な人口減少、慢性的な人手不足、デジタル化の進展など、日本は再び転換点を迎えています。新たな環境に適応するには、リスクを伴う挑戦が不可欠。「ニッキン70周年企画」の連載記事では、次の時代への「橋渡し役」として存在感を高める金融機関の姿を追いながら、10年後の金融界を展望します。連載第10回の今回は、野村グループのデータプラットフォーム構築を取り上げます。
野村グループ、米国発スタートアップと連携
一生涯にわたる取引関係の構築には、〝データ〟に基づく部門連携による提案体制が不可欠となる。半面、顧客情報の共有・活用に関する金融業界のレギュレーション(規制)は、他業界よりも煩雑で厳しい。12月に創立100周年を迎える野村グループは、先進技術を駆使したデータプラットフォームを提供する米国発スタートアップ「Snowflake」と手を組み、業界に長年立ちはだかる「データ共有の壁」に挑んでいる。グループ各社の顧客データなどを一元化し、潜在ニーズの掘り起こしや提案力の底上げにつなげ、富裕層などとの結びつきを強める狙いがある。
基盤データ一元化へ下地
野村グループは2022年から、「部門横断でのデータ利活用」を旗印としたエンタープライズ・データプラットフォーム構想を推進してきた。傘下の会社・部門ごとに管理する顧客情報などを「共通基盤に乗せ、データガバナンス体制などをそろえていく」(野村ホールディングスの加藤あゆみデータ戦略部長)という。
同グループの中核企業である野村証券は、全社規模のデータ活用基盤として、「シェアリング機能」に長けたSnowflakeのクラウド型システムを採用。先陣を切ったウェルス・マネジメント部門では、21年春から22年秋にかけてオンプレミス(自前)型の既存システムから顧客関連情報などを置き換え、各部門で管理するビジネスの基盤データ一元化への下地を整えた。ホールセールやインベストメント・マネジメントなど他部門のデータ移行も段階的に進め、組織全体でのデータ共有体制を実現したい考えだ。
技術進化で実現可能に
金融機関は、他業界に比べてレギュレーションが厳格なため、部門間のデータ共有にハードルを感じることも少なくない。
一方、テクノロジーの進化は目覚ましく、「共有したいデータがあれば、グループ内でのデータ共有や適切なアクセス権限が、データベースの簡単な設定で可能になった」(野村証券の野村宗一郎ウェルス・マネジメントIT部長)。
厳格だった顧客データに関する規制も、時代の要請などに合わせて緩和が進み、顧客が情報共有に同意した場合の部門間連携といったグループ一体での提案姿勢は重みが増す。伝統を誇る大手金融グループと海外発スタートアップの掛け合わせによる挑戦が、金融業界の顧客データ利活用における新たな可能性を開こうとしている。
「ニッキン70周年企画」の連載第11回(最終回)は8月17日に配信します。