【ニッキン70周年企画(2)】三菱UFJFG、富裕層ビジネスを再構築
2025.08.08 04:40
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日本金融通信社(ニッキン)は2025年8月27日、設立から70年を迎えます。本紙第1号が発行された1955年は、戦後復興を遂げた日本が高度経済成長期に突入する転換の年でした。あれから70年。急速な人口減少、慢性的な人手不足、デジタル化の進展など、日本は再び転換点を迎えています。新たな環境に適応するには、リスクを伴う挑戦が不可欠。「ニッキン70周年企画」の連載記事では、次の時代への「橋渡し役」として存在感を高める金融機関の姿を追いながら、10年後の金融界を展望します。連載第2回の今回は、グループ内の「銀行・信託・証券」連携を強化して富裕層ビジネスの充実化を進める三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)です。
三菱UFJFG、グループ内の「銀信証」情報を駆使
三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は、富裕層ビジネスで対面と非対面の顧客接点を充実させ、最適なソリューションの提供を目指している。2025年度から銀行・信託・証券のグループ横断となる顧客情報管理のプラットフォームにAI(人工知能)機能を追加し、営業サポートを強化しているほか、5月にはオンライン上に情報発信メディアも立ち上げ、多忙な富裕層へのアプローチ図りたい考え。
22年2月にグループ横断の顧客情報プラットフォームを全社に展開。営業面の支援では、同意を得た顧客のグループ総資産を把握・分析した上でのポートフォリオ提案や資産・事業承継提案等に加え、ニーズ予測やネクストアクションを担当者にタイムリーに配信できるようにした。
AIがソリューションの提案内容を〝助言〟
25年度には生成AIの機能を追加し、顧客の誕生日や入金などイベント時のメール文案作成、顧客面談シナリオの設計・面談準備などにより、営業効率化につなげている。
好事例も目立ってきている。あるファミリー企業のオーナーに対し、銀信証一体で事業売却を支援すると同時に、個人の資産運用は同システムの資産承継ソリューション機能を生かし、事業売却後の資産ポートフォリオや二次相続をシミュレーション。提案の結果、事業売却後の資産承継に関する複数のソリューション成約につながった。
そのほか、預金滞留状態が続く富裕層顧客の将来キャッシュフローを同システムで可視化。銀行担当者が当該顧客との面談の際に、商品ありきではなく、運用シミュレーションと資産ポートフォリオの変化を解説することで運用ニーズを喚起し、証券の担当者にトスアップする事例もある。
会員制のオウンドメディアを新設
5月には、富裕層向けの会員制の情報発信メディア(オウンドメディア)を新設。専門的な情報やライフスタイルコンテンツを定期的に配信するほか、連載マガジンの掲載やセミナーの招待など特別な顧客体験を創出したい考え。同メディア内では、リモート専任アドバイザーによるウェブ相談の予約申し込みもできる。
一方の対面活動では、オーナー企業の承継課題の解決に向け、学術的な知見を生かしたアプローチにも注力している。22年度からスリーサークルモデルを用いた産学共同研究に着手。研究成果や知見を共有する取引先セミナーも展開している。これまで全国76拠点で開催し、のべ1220社が参加した。26年度までに2千社以上に増やしたい考え。
同セミナーは、「長寿経営の特徴」や「次世代の経営戦略」など幅広い層に関心を持ってもらえるテーマを設定することで、次世代の経営者との接点も確保でき、その後の円滑な事業承継相談につなげている。
保有資産3億円以上の個人顧客は30万人
同社の保有資産3億円以上の富裕層の個人顧客は約30万人いるが、実際に接触できている顧客は約3割(10万人)にとどまっている。それ以外の20万人は「多忙で面談時間が取れない」や「ライフイベントがない」などの理由で、接点を持てないことが課題だった。この課題に対し、顧客が自由に接点を持てる情報発信メディアや、リモート専任アドバイザーとの予約サービスを提供している。
ウェルスマネジメント戦略部の伊藤伸紘上席調査役は「お客さまが望む面談形式を整え、しっかりとニーズを深掘りして関係性を作っていく」と話す。
「ニッキン70周年企画」の連載第3回は、りそなホールディングスの資産・事業承継ビジネスを取り上げます。(8月9日配信)
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