日銀、世界経済「不透明感高まる」 〝米関税公表前〟の3月会合で
2025.05.08 12:03
日本銀行は5月8日、前々回(3月18、19日開催)の金融政策決定会合の議事要旨を公表し、複数の政策委員が米トランプ関税政策により、米経済の「個人消費や設備投資のスタンスが慎重化する」可能性に言及していたことを明らかにした。一方、移民政策とともに「供給面から物価を上押す可能性がある」との見解を示す委員もみられ、国内外の経済・物価動向に対する不透明感の高まりを訴える声が並んだ。
同会合は、適用税率などを打ち出した米関税発表・発動(4月上旬)前に開かれた。
議事要旨によると、多くの委員は「(世界)各国の貿易活動に大きな影響が及ぶ」可能性に触れたうえで、「不確実性が高い状況が続くが、国際金融資本市場や各国の企業・家計のコンフィデンスに影響を及ぼすことも考えられる」と指摘。関税政策の具体的な枠組みなどを見定める意向を強調した。
また、米政権がもたらす安全保障環境の変化などを念頭に「グローバル経済の構造に大きな影響を及ぼす」と長期目線での懸念を訴える意見も複数あった。
半面、雇用・所得関連統計などハードデータでは「大きな変調がみられない」と底堅さを表す見方が複数委員からあり、「政策変更を急がないとのFRB(米連邦準備制度理事会)の情報発信も踏まえると、日銀の政策の自由度は引き続き増した状況である」との声もみられた。
賃上げ「想定範囲の高め」
国内物価は、「上振れリスク」を意識する声が目立った。主な焦点の2025年春季労使交渉(春闘)に関して、同会合前に公表の連合1次集計結果を踏まえ、「『本年(25年)もしっかりとした賃上げが実施される』という1月(前回)会合時点の見方に沿ったもの」との認識を委員間で共有した。
そのうえで、複数の委員は「賃上げ率は事前に想定していた範囲の中では、高めの水準となっている」と評し、中小企業への波及など賃上げ機運のすそ野拡大を受けて「賃金上昇の持続性は次第に高まっている」との認識を示す委員も多かった。
食料品価格などの上昇が、先々の物価観や「インフレ予想」を一段と押し上げる影響にも議論が及んだ。
多くの委員は、米価などについて「天候など一時的な要因による部分が大きい」としつつ、「供給力の持続的な低下や人件費・輸送費の上昇などが影響している面もあるほか、食料品価格の上昇が予想物価上昇率を押し上げ、基調的な物価上昇率に影響する可能性もある」として、法個人の物価観への波及も指摘した。
ある委員は、民間調査結果を持ち出し、「食料品の価格改定の動きも再び勢いを増している」とし、消費者物価指数(5月23日公表)などで明らかになる25年度期初(25年4月)の値上げ動向を見極めていく必要性を訴えた。
政策運営の先行きについては、米関税政策により不確実性が高まった場面を踏まえ、「政策金利を引き上げるタイミングをより慎重に見極めることが必要」との声がある一方、「不確実性が高まっているからといって常に慎重な政策対応が正当化されるわけではなく、今後の状況によっては、果断に対応することもありうる」と構える委員もみられ、政策スタンスは二分している。