東証、取引時間30分延長 投資機会増やし活性化へ一歩
2024.11.04 04:45
東京証券取引所は11月5日から、取引終了時間を30分延長し15時30分までにする。終了時間の変更は1954年以来、70年ぶり。投資機会の拡大による市場活性化を狙うが、取引時間の長い欧米主要取引所との差はなお大きく、効果は未知数だ。上場企業は投資家ニーズを反映した情報の適時開示が一段と問われる。
海外と差縮める
取引時間延長の背景には、2020年10月に発生した東証の大規模システム障害がある。再発防止策の検討で設置された協議会で円滑な売買再開を模索してきた。システム障害が発生しても当日中に取引を復旧させる可能性を高めるため、30分の延長を決めた。
変更後の取引時間は平日「9時~11時30分」「12時30分~15時30分」の計5時間30分になる。新たにクロージング・オークション制度も導入する。近年、取引終了間際の売買注文が増えていることを受け、15時25~30分の売買を停止。5分間を「注文受付時間」として、取引終了の15時30分に終値を決定する。公平で透明性の高い終値を形成するため。5分間リアルタイムで売買できないのが注意点だ。
投資機会を増やすことで海外投資家を取り込み、国際競争力を高める狙いもある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員は「日本の売買代金のなかで特に取引量が多い欧州拠点の投資家にとってはポジティブな影響がある」と見通す。
海外の主要取引所との比較では、香港市場と取引時間が並ぶ。一方、ロンドンは8時間30分、シンガポールは7時間、ニューヨーク(NY)は6時間30分と差は大きい。NY証取は電子取引所などを通じた時間外取引を含めて取引時間を22時間にする延長計画も公表した。このため東証の取引時間延長による効果については懐疑的な見方もある。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「30分の延長に留まらず、今後どれくらい延長できるかで競争力に差が出てくる」と分析する。
証券業界などは業務の後ろ倒しに対応する。ある証券会社は「レポートの発行が遅れることに伴い負担が増す」と吐露する。金沢市に本店を置く今村証券は取引時間延長を契機に時差出勤制度を導入する。約200人の全社員を対象に30分刻みで出退勤時間をずらせるようにすることで残業が増えることを防ぐ。
迅速開示に期待
上場企業は決算開示のタイミングを見直す契機となる。東証によると現状、全上場会社約2200社のうち約半数が取引時間終了後の15時~15時30分に開示が集中している。
理由として「決算内容を十分に理解したうえで売買してほしい」「場中開示によって急激な株価変動を避けたい」といった心理がある。
11月5日以降、「引け後」に開示していた層の対応に注目が集まる。30分延長によって「場中」に収まるケースも出てくる一方、延長後も終了後の開示を続ける先も少なくない。東証は投資家への迅速な情報伝達などの理由から、「取引時間中であるか否かにかかわらず速やかに開示すること」を上場企業に強く求めており、迅速な開示に期待をかける。
銀行界、前倒し対応も
銀行界の開示時間をみると、上場する79行・社の24年4~6月期決算では8割程度が引け後の15時以降に開示。全業種の傾向と同じく15時~15時30分の開示が最多の36行に上る。
東証の集計によると、11月から本格化する同年4~9月期決算の開示時間予定について、前述の36行のうち15行(42.9%)が15時~15時29分の立会時間内に開示する一方、16行(45.7%)が15時30分以降へ後ろ倒しする。
ある地銀は「株価や投資家への影響を踏まえて慎重に検討したい」としている。決算説明会場を確保する観点から、東海地区の一部地域銀は15時20分に開示していた決算を16時に後ろ倒しする。24年4~6月決算では取引時間後に開示していた大分銀行と京葉銀行の2行は、4~9月決算では14時59分以前へ変更する予定。
決算開示を早める動きは既に出ている。ちゅうぎんフィナンシャルグループ(FG)は24年3月期決算から、開示時間を15時から14時に1時間前倒しした。経営企画部の長谷川誠司次長は「他行と同じよう引け後にすると、内容が埋もれてしまう可能性がある。多くの投資家に知ってもらうためにも、思い切って前倒しした」と経緯を語る。
同社は開示を早めるため取締役会の進行を工夫した。取締役会は議題数や内容によって開催時間が伸縮することから、議題スケジュールの組み替えや休憩時間をやりくり。開示時間1時間前の13時をめどに終えるよう、決算に関する議案を早めに決議するようにした。従来12時ごろだった昼休憩も決議後の13時へ変更した。長谷川次長は「持ち株会社体制に移行してから取締役会を複数開いており、試行錯誤しながら運用していく」と4~9月期決算も同様の運営方針を取る。
大和総研政策調査部の神尾篤史副部長は「速やかな開示は情報漏洩リスクの回避にもつながる」と指摘。一方で「決算の数字が独り歩きし、すぐに売買されるのは上場企業にとって避けたいこと」と分析する。大手上場企業のなかには場中に決算開示した後すぐに、YouTubeなどで投資家向けに経営陣が直接説明する場を設けるケースもある。
「決算の開示方法も企業によって分かりやすさなどにばらつきがあり、開示が集中すると機関投資家も情報を消化しきれない」(神尾氏)。企業は開示時間や判断材料の提供方法など、投資家の目線に合わせた取り組みが一層求められる。