【眼光紙背】喧騒に響く師弟の警告
2024.03.14 04:30師弟は〝タイミング〟を計っていたのだろう。日経平均株価がバブル期高値を更新(2月22日)した翌日。世の喧騒(けんそう)と随分異なる記事が、ある経済メディアサイトに載った。さわかみ投信創業者の澤上篤人氏と、同氏を師と仰ぐ中野晴啓・なかのアセットマネジメント社長の対談だ。
澤上氏は独立系ファンド業界の草分け的な存在。片や中野氏も「積立王子」の愛称で知られ、ユーチューブでも情報発信するなど個人投資家に人気がある。
PER(株価収益率)などを見ても今回の株高はバブル期と違って異常といえないとの見方が多いが、澤上氏は逆に「いつ弾けてもおかしくない。近々、大暴落します」と予測。中野氏は「暴落」という言葉は避けつつ「大きな調整は必ず来る」と警告していた。
いつの世の株高局面でも、市場関係者には相対的多数の「ブル派」に対し、「ベア派」と称される一群がみられる。株高局面でもあえて慎重なコメントで立ち位置を得ているとのうがった見方をされたりもする。
ただ、そもそも株価予測は困難で鵜呑(うの)みにはできないが、師弟が挙げたリスクは気掛かりだ。一部の紹介にとどめても、相場を押し上げた過剰流動性や年金マネーの膨張がそろそろ限界との指摘は背筋が冷える。
さらに、バブル崩壊後の長い冬で凍えた市場関係者と投資家が、その反動のあまり熱に浮かされリスクから目をそらすことを戒めることに両氏の底意がある気もする。これは私の〝うがった見方〟かもしれないが。
エコノミストにも、アベノミクスと金融緩和の〝官製相場〟の死角に警鐘を鳴らす向きはある。反リフレ派の論客で「現在の株価はバブルだ」とメディアやSNSで訴える小幡績・慶応大学大学院教授などがその代表格だ。
相場の変調に備え、もしも大崩れした際にどう対応すべきか。投資家自身はもちろん、顧客とする金融機関の営業担当者もその視点を欠いてはならない。米著名投資家のジム・ロジャーズは「変化に適応できない人は、変化に吹き飛ばされる」との格言を残した。ニッキンONLINEの「預かり資産営業の〝お悩み〟Q&A」(3月2日掲載)で、IFA法人Fanの平石康徳氏は、ふだんから顧客のリスク許容度を把握し、金融不安時に「十分なコミュニケーションをとる」べきだと担当者に説いている。
一方で、個人投資家を市場に導く新しいNISA(少額投資非課税制度)について、澤上氏は「制度はいい」とし、中野氏も「資産運用への関心が一般化した」と評価している。創業期の澤上氏を取材した際、「日本に投資を根付かせたい」と熱っぽく語っていたのを思い出す。
歴史的な株高と、来るやもしれぬ反動をどう乗り越えて進むか。岸田政権の掲げる「資産運用立国」の実現にとっても正念場となる。
(編集委員 柿内公輔)