転換期の有価証券運用 最終回 外部専門家の活用法

2024.01.09 04:45
転換期の有価証券運用
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

【今回の筆者は日本資産運用基盤グループ・ディレクターの白瀧 俊之氏】


欧米で普及が進む「OCIO」


過去3回において、「金利のある世界」への転換期を迎えつつある地域銀行の有価証券運用事業の概要、現状抱える課題、外部モニタリング機関の目線について確認してきました。最終回となる第4回は、これらの課題に対する解決策の一つであるアウトソースド・チーフ・インベストメント・オフィサー(以下、OCIO)についてご紹介します。


OCIOとは、資産運用に係る資産配分の決定からポートフォリオの構築、運用商品の選定からモニタリングまでを包括的または部分的に外部の専門家に委託するサービスの総称であり、2008年の世界金融危機以降、欧米の中小規模の年金基金を中心に専門性を有する人員不足を補強する目的で活用が広がり、近年では保険会社や財団にまで広がりをみせています。OCIOの受託資産残高は2026年に4兆ドルを超える水準に達するとの予測もされており、今後も成長分野の一つとして期待されています。


主要な委託者が年金基金中心であることから、OCIOサービスを提供しているのは運用コンサルティング会社、運用会社や証券会社などが中心となっています。受託資産残高が急増する一方で、受託機関間の競争も激化傾向にあります。


アセットオーナーが抱える課題


米Cerulli Associates社がアセットオーナーに対しOCIOの利用を決定する際に考慮した要因の中で重要度が最も高い順に3つ回答するアンケート調査を行った結果、ガバナンス・プロセスの向上と社内リソースの不足が同率で1位となり、次いでリスク調整後リターンの向上となっています。


国内においても、2023年4月21日に金融庁が公表した「資産運用業高度化プログレスレポート2023」の中でアセットオーナーの運用高度化に向けた課題として確定給付企業年金における職員の専門性・人員不足への対応例としてOCIOが紹介されています。


これは、2022年12月に岸田内閣が公表した「資産所得倍増プラン」の第7の柱である「顧客本位の業務運営の確保」における企業年金を含むアセットオーナーに対するガバナンスやモニタリングの改善といった課題認識が反映されたものであると考えられ、年金基金のみならず国内のアセットオーナーに対する共通の課題でもあることから導入の必要性が今後拡大していくものと思われます。


運用コンサルティング会社であるマーサー社によると、欧米の機関投資家のOCIO導入パターンは、①すべてのプロセスを自社で取り組むインハウスモデル、②一部のプロセスを外部委託する投資助言モデル、マネジャープラットフォームモデル、部分的アウトソースモデル、③すべてのプロセスを外部委託する全体的アウトソースモデルに大別され、組織の規模、ガバナンスの必要性やコストを勘案し、導入パターンが決定されます。


 



商品からガバナンス重視へ


低金利の環境が長く続いた国内機関投資家がオルタナティブ投資にまで投資対象を拡大した際に、「ゲートキーパー」という言葉を聞かれたことがあるかと思います。ゲートキーパーは主に機関投資家向けにヘッジファンドやプライベートアセット等のオルタナティブ資産への投資助言や一任運用を行う専門業者を指した表現であり、マネジャープラットフォームモデルはまさにゲートキーパーへの外部委託の一部といえます。この意味において、OCIOはゲートキーパーの上位概念であり、ゲートキーパーを内包するものと位置づけると理解しやすいかもしれません。


受託機関間の競争も激化傾向にあるOCIOですが、選定基準においても変化がみられています。2023年12月5日に運用コンサルティング会社であるマーサー社がバンガード社のOCIOビジネス(受託残高:600億ドル、受託先数:1,000以上、従業員数:120名)を買収したとの報道がありました。買収の詳細は明らかにされていませんが、弊社作成のプロダクト重視のソリューションとプロセス重視のソリューションを軸とした四事象チャートを使用すると、その背景が浮かび上がってきます。バンガード社のような外資大手の運用会社は機関投資家向けビジネスの中でOCIOサービスを提供しています(第一事象)。


一方、マーサー社は、運用コンサルティング会社であるため、四事象のチャートのほぼ中心から第三、第四事象寄りに位置するといえます。したがって、プロダクト重視からプロセス重視のソリューションに軸足が移された、すなわち、利益相反のより少ないガバナンスを重視したOCIOソリューションが選好されたことが推察されます。


前記の11のプロセスはPDCAサイクルという一連の流れが一つの集合体となっている点やPDCAの各々が独立しているわけではなく、関連性が高い点を踏まえれば、よりガバナンス・プロセスの向上や社内リソースの不足を補強する目的で全体的アウトソースモデルが選好される理由も納得できます。そして、今後はよりガバナンス・プロセスの強化を主眼とした第四事象に位置するOCIOソリューションが主役となる流れに拍車がかかっていくものと確信しています。(おわり)


※PDCA(Plan=計画、Do=実施、Check=評価、Action=改善)


◇ 過去の連載 ◇


第1回 膨らむ地域銀の円債リスク


第2回 迫る環境変化に備えを


第3回 含み損拡大が促す決断


 

すべての記事は有料会員で!
無料会員に登録いただけますと1ヵ⽉間無料で有料会員向け記事がご覧いただけます。

有料会員の申し込み 無料会員でのご登録
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

関連キーワード

転換期の有価証券運用

おすすめ

アクセスランキング(過去1週間)