転換期の有価証券運用 第1回 膨らむ地域銀の円債リスク

2023.10.02 04:35
転換期の有価証券運用
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【今回の筆者は投資運用ソリューション部門長の石田淳氏】


重要性増す「有価証券運用」


地域銀行では、地方経済の低迷、人口の減少など構造的な問題を背景に、本業の貸出金利回りの低下傾向が続くなか、有価証券利回りは貸出金利回りを上回る状況にあり、銀行経営における有価証券運用の重要性がますます高まっています。


長らく低金利の環境が続いており、地域銀行は利回り追求のために積極的にリスクテイクを行ってきました。ポートフォリオにおいては、「その他の証券(投資信託・外国債券他)」への投資で、ここ数年、特にマルチアセット、海外クレジット系、海外のオルタナティブ資産など、国内株式や債券以外の非伝統的資産への投資を増やしており、ポートフォリオが多様化・複雑化しています。


一方、地域銀行ポートフォリオの潜在的な円債の金利リスクも大きくなっています。


日銀の金融システムレポートによると、⾦融機関の円債投資にかかる⾦利リスク量は、2002年度以降の既往ピーク⽔準となっています。⼤量償還を迎えた⾼クーポン債のキャリー収益減少を補う観点から、デュレーションが⻑期化しているのが理由です。ネガティブキャリーを回避するため、短期化するのも困難な状況となっています。


地政学的リスクの高まりやサプライチェーン(部品供給網)の問題などを背景にインフレ懸念が高まり、金利上昇、株価下落など投資環境の大きな変化から、22年度は有価証券評価損益が大きく悪化しました。投資信託での投資も含め、特に外債の評価損が拡大する中、リバランスにより実現損を確定させた地域銀行の益出し余力(有価証券評価損益÷コア業務純益)はマイナスになりました。


「含み損処理」で格差も


22年度末(23年3月末) には「その他の証券」の価格の下落により、93行の含み益が前年度末に比べて約1兆6700億円減少し、51行が含み損に陥りました。第二地方銀行合計の含み益は約600億円に減少する一方、地方銀行合計の含み益は約2兆2000億円と含み損益の額や既に含み損の処理が終わったか否かで、格差が見られる状況となりました。


23年度第1四半期決算(6月末)時点では、日本株の上昇を主因に97行の含み益が3月末比で約1兆1000億円増加しましたが、9月に入ってからの日米金利の上昇を鑑みると、9月末時点の含み損は再拡大している懸念があります。


 



出所:ともに各行決算資料より日本資産運用基盤グループ作成


顕在化する5つの懸念点


筆者は1年ほど前からセミナー等で、地域銀行の決算に関して、以下のような懸念点を指摘していましたが、徐々に顕在化をしている状況です。


①信用保証協会の保証付き融資(実質無利子・無担保融資=ゼロゼロ融資)の返済開始


東京商工リサーチによると、ゼロゼロ融資の返済開始がピークを迎えた8月の全国企業倒産件数は前年同月比54%増となりました。倒産件数は17カ月連続で前年同月を上回っています。


②エネルギーや物価の高騰が貸出企業業績へ与える悪影響の本格化


2023年度第1四半期(6月期)決算では、約半数の49行の地域銀行が、与信費用の増加(対前年同期比50%増)を主因に当期利益が減益になっています。


③日本国債の金利上昇による「さらなる含み損の拡大」


日本銀行は23年7月の金融政策決定会合で長期金利の許容変動幅を拡大し、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)を修正しました。その後にマイナス金利解除の前倒し観測から9月の決定会合後には0.745%に上昇しており、10年ぶりの高い水準になっています。ポートフォリオの約60%が国内債券へ投資をしていること、22年12月末の日本の長期金利が0.42%になった際に、含み損が大きく拡大したことを考えると、23年9月中間決算の時点では、国内債の含み損はさらに拡大している恐れがあります。


④含み損拡大に伴うリスクテイク力の低下による投融資機会の損失


23年度第1四半期決算時点では、日本株の上昇を主因に97行の含み益が増加していますが、日本株の保有の有無により、含み益の上昇幅に地域銀行間で大きな格差が見られます。


含み損を処理できない地域銀行では、リスク管理の観点からさまざまな制約がかかります。そうなれば本来リスクを取って行うべき、事業運営や投融資ができなくなり、収益機会を失うリスクがあります。このような状態が継続すると、中期的に大きな差が生まれる懸念があります。


⑤含み損拡大による減損損失の計上に伴う自己資本の棄損


欧米のインフレは当初の想定よりしつこく長期化しています。9月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、政策金利が据え置かれたものの、23年内にあと1回利上げがあり、24年末まで5%を超える政策金利が続くとの見通しを示したことから、米国の長期金利も4.5%を超えて上昇し16年ぶりの高水準になっています。スタグフレーションに陥る懸念もあります。


また、米国の地域銀行の破綻に絡む金融不安、中国経済の減速、地政学リスクなど、リスク要因は拡大を続けています。日本の長期金利も現状は1.0%がキャップ(上限)になっていますが、いつまで続くか分かりません。含み損が処理できないまま拡大し、減損を計上しなければいけないレベルに達する恐れがあります。



日本資産運用基盤グループ


投資運用ソリューション部門長 石田 淳(いしだ じゅん)氏


早稲田大学商学部卒。第一生命保険入社。2001年より主にクレジット・アナリストおよびファンド・マネージャーとして、興銀第一ライフアセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)をはじめ、複数の外資系資産運用会社にて運用業務に従事。22年5月日本資産運用基盤グループに参画。地域金融機関に向けた運用支援ソリューション業務に従事。23年6月より同社執行役員として投資運用ソリューション部門を統括。TV、新聞、雑誌などに数多く寄稿。


 


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