識者に聞く2023年の銀行界③ ~有価証券運用~
2023.02.12 04:45
体制高度化は急務に
石田・日本資産運用基盤グループ部長
地域銀行を中心に、保有する有価証券の含み損が経営の重荷になっている。今後、日本銀行が金融緩和政策のさらなる運用見直しに動いた場合には、円債の評価損益が一段と悪化する懸念もある。日本資産運用基盤グループの石田淳・投資運用ソリューション部長(55)に、地域銀がこの難局にどのように対処すべきかを聞いた。
――昨年12月に日銀が長期金利の変動幅を0.5%程度に拡大した。
「2013年3月に就任した黒田東彦総裁が始めた異次元緩和 が“修正された”。この意味は非常に大きい。日本の長期金利は06年以降ほぼ右肩下がりで推移してきたが、転換点を迎えている可能性がある。さらに、本格的なインフレ時代が到来するならば、長期金利の上昇は一過性ではなく、今後数年にわたり続くこともあり得る」
「地域銀では、ポートフォリオの約30%を占める外国債券や投資信託など『その他証券』の含み損が大きな問題になっている。今後は、 60%を占める国内債券の含み損が拡大するリスクがある。 個別の銀行によっては、90%以上を国内債券が占めているところもある」
――今年の市場環境の見通しは。
「昨年に引き続きとても難しい市場環境になるだろう。インフレ動向だけでなく、グローバルでの労働人口減少やブロック経済圏化、気候変動リスクの高まりなどを要因としたパラダムシフトの転換点となる可能性もあり、不透明感からボラティリティの高まりが懸念される。地域銀は、外債や投信の含み損を抱えながら、国内債の金利上昇や株とREIT(不動産投資信託)の下落リスクにも注意しなければならない」
――地域銀の運用の現状をどう見るか。
「これまでは低金利が今後も継続するという前提で、利回り追求のために積極的なリスクテイクをしてきた。11年以降、『その他証券』のポートフォリオに占める割合が1割から3割強へ上昇していること、有価証券利回りは1%で変わっていないことがそれを表している。一方で、運用体制やリスク管理体制の高度化を怠っていたのではないか。少人数で運用を行っているのにも関わらず、さらに人員が減らされるといった信じがたい事例も聞く」
――対応策は。
「まだ余裕がある今のうちに立て直しを図ることが急務だ。すなわち、経営として有価証券事業の位置付けの明確化、中長期的ポートフォリオ運用の考え方の導入、規律ある運用プロセスとリスク管理の高度化、人材・体制の整備が必要になる。自力で解決できなければ、外部のアドバイスを受けることが大切だ」
「人員やノウハウの不足から、外部機関に運用の一部を任せている銀行も多い。この選択自体は決して間違いではない。だが、それがうまくいっていない事例を見ると、任せっぱなしになっている可能性がある。本来であれば、自前で運用しているのと同じように、委託先を継続してモニタリングする必要がある。委託した当初と比べて市場環境が変化したのであれば、解約したり投資先を変更したりといった行動を取らなければならない」
おすすめ
アクセスランキング(過去1週間)
- 一部地域銀、レビキャリ活用に悩む 金融庁から強い働きかけ
- 片山さつき財務・金融担当相 積極財政で力強い経済成長
- 信金、メール運用の見直し検討 犯罪対策や内部監査強化
- 大手信金、内々定者交流で辞退減 「転勤なし」ニーズ合致
- 城南信金と京都中央信金、生成AIの共同研究会 キックオフイベント開催
- みずほFG、内定辞退率10ポイント改善 役員が交流、〝距離〟縮める
- SBI新生銀、地銀向けにデジタル資産テーマのセミナー 87行217人が参加
- 経産省、人的資本経営の成果を共有 しずおかFGやCCIGが発表
- 信金、人材紹介支援広がる 「スキマバイト」活用
- 日銀、政策金利を据え置き 賃上げ基調の持続性「もう少し確認」