【イノベーションDXの現場指揮官に聞く】えり抜きの若手集め新部署、データから顧客の関心を特定

2023.07.15 04:45
インタビュー イノベーションDXの現場指揮官に聞く
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イノベーションDXの現場指揮官に聞く

デジタル化の急速な進展に伴って、銀行業務においてもシステムの重要性が劇的に変わりつつある。将来のビジネスモデルを描くうえで、デジタルトランスフォーメーション(DX)は欠かせないキーワードだが、日進月歩の領域だけに画一的な正解があるわけではない。IT活用で先行する地域銀行は、どのように変革を進めているのか。現場を指揮する責任者の言葉からヒントを得る。


山口フィナンシャルグループIT統括部・原田紘幸さん山口フィナンシャルグループIT統括部・原田紘幸さん 連載初回は山口フィナンシャルグループ(FG)を取り上げる。2019年7月、パブリッククラウド上に統合データベース(現在のクラウドデータ・プラットフォーム)を構築。そこにはFG傘下の3行(山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行)の勘定系・情報系システムの顧客データが集約されている。「データレイクという技術を実務に活用した最初の事例であり、所轄官庁も『外部データの利活用』という観点で着目している」(嶋宮氏)という。原田紘幸・IT統括部長に、膨大なデータの中から生きた情報を探し出すためのコツを聞いた。


顧客を知るための基盤
 ――データベース構築の狙いは。

 「データベースというより、データ分析基盤という位置づけだ。金融機関は多くのデータを保有していながら、顧客のために真の意味で活用できていないという課題があった。そこで、3行の複数システムに分散していたデータを統合し、データを分析・活用できる基盤を構築した。
 以前は勘定系のデータを取得する際、共同システムの管理センターにデータ抽出を依頼してから1、2週間はかかっていた。現在はクラウドデータ・プラットフォームにもほぼ同じデータが蓄積されているので、データ分析したいと思い立ったその日のうちに、各事業部門の担当者が必要なデータを直接抽出できる」
――実際の業務にどう役立てているのか。
 「法人とリテールの双方で、顧客に最適な商品・サービスを提案するために活用している。データを分析して、各顧客の関心がありそうな商品を特定し、スマートフォンアプリのレコメンドや電子メール、SMS(ショートメッセージサービス)、DM(ダイレクトメール)などで案内している。
 一例として、スマホのポータルアプリには、顧客の関心を特定するために必要なデータを収集し、レコメンドやポップアップでご提案するアルゴリズムを組み込んでいる。顧客属性や資金移動・残高のデータに加え、その顧客がホームページ上でどの情報を閲覧したかなどの行動データも取り込み、データ分析の精度を高めている。
 現在、本部内にはSQL(データベースを操作するための言語の一つ)を使いこなせる人材が50人ほど育っていて、顧客をどのようにターゲティングするかを考えたうえでデータ抽出のためのアルゴリズムを自ら組んでいる」
 ――成果は。
 「データを活用しない場合に比べ、アクセスできる顧客の範囲は20%ほど広がるケースも出始めている。日頃は来店されない顧客や、外交担当者があまり訪問していない顧客とも接点ができたことが大きい。
 顧客に商品を提案した後で、その効果を測定するデータも取得しており、より効果的な提案につなげるためのサイクルを回している。」


DX戦略部設立が転機に
 ――データ活用を軌道に乗せるまでに紆余曲折は。

 「19年の開始当初、データの分析・活用を周囲に訴えても理解できるのは一部の人間だけで、大半は『何の役に立つのか』という反応だった。事業部門は『どんなデータがあるか分からないとデータ活用のアイデアも浮かばない』と言う一方で、IT部門は『どんなアイデアがあるかを示してもらわなければ何のデータ項目を提示すればいいのか分からない』という具合にぶつかり合っていた。
 最初の転機は、外部の方々との会話だった。データ分析基盤でクレジットカード利用実績と金融取引データを組み合わせ、顧客が望むサービスを分析するためのデータとして可視化しているという話をしたところ、『(当時は)他の金融機関でもそこまで出来ているところは少ない』という評価を得て、一定の自信につながった。
 それがきっかけとなり、20年6月にDX戦略部が設立された。これが次の転機となった。(原田氏が部長に就き)部員は約10人。法人、リテール、ITの各部門から優秀な若手メンバーを集めてもらった。データ活用を主業務とする同部ができたことで、本部内でデータというファクトに基づいて意思決定をする機運が高まった」
 ――データ分析に必要な資質は。
 「データ分析の世界は、理系の頭も、文系の頭も必要になる。その上で何よりも大事なのは、顧客の考えや行動をペルソナとして導き出せるイメージ力だ。例えば、何歳以上がどれくらい取引をしているという事実だけでは、活用できる情報とは言えない。データを読み解いて、その階層がどのように行動するかまで分析する必要がある」


10年後は必須の機能に
 ――銀行界の将来予測は。

「クラウドデータ・プラットフォームは、顧客を真の意味で知るための基盤だ。今後10年程度で各金融機関の標準システムとなる可能性がある。もはや店舗や営業員を増やして人海戦術で営業展開する時代ではない。これからは、コスト効率を高めて顧客に必要な情報を素早く正しく届け、それに対する反応データから顧客を知ることも必要になる。
 例えば、金融取引データのみで顧客のことを知っていると言えるだろうか。金融機関には顧客の財産に関するセンシティブな情報がある一方で、初対面でも気軽に聞ける食べ物やスポーツの好みに関するデータは持っていない。従来は外交担当者がその情報を持っていて、データ分析をしなくても顧客を知っていたのかもしれないが、属人的であり持続可能ではない。将来的には、金融機関が組織として顧客のことを良く知り、必要なタイミングで必要な情報を精度高く提供できるビジネスモデルを実現していくべきだと考えている」
 ――営業方法もがらりと変わるのか。
 「データ分析や高度なアルゴリズム、AI(人工知能)に基づく、人を介さないマーケティングオートメーションへと進化するのではないか。この領域になると、金融機関が保有するデータだけでは足りなくなる。
 金融取引以外のデータに加え、外部データやオープンデータも組み合わせることで、新たな価値を生み出せる可能性がある。そのためには、新たなテクノロジーを使いこなせる人財の育成がカギとなるだろう」

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