【推薦図書】『ドキュメント 通貨失政』(西野智彦著)

2023.04.21 04:45
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ドキュメント 通貨失政(西野智彦著)

【推薦者】日本銀行企画局長・中村康治氏
 歴史的経済事象のエンタメ


ニクソン・ショック、スミソニアン合意、狂乱物価。1970年代前半に次々と発生したこれらの歴史的経済事象について、本書は、ドキュメントとして生き生きと記述しており、エンターテイメントとして楽しめる一冊となっている。当事者の多くは既に鬼籍に入っているため、著者は利用可能な文献を収集して本書を執筆したが、本書の記述は、当事者への取材を行ったかのようなライブ感がある。
 一連の事象の根源は、固定相場制のもとでの日米欧の貿易不均衡問題。現代のマクロ経済学の知見に基づけば、貿易不均衡は、貯蓄投資バランスの反映であり、各経済主体が最適化行動をとった結果であることを知っている。もっとも、当時は、貿易不均衡問題は政治的に解決すべき大問題であり、その手法としては、為替による調整ないし当事国における経済・物価の調整によって達成されるものとの認識が「常識」であった。本書は、その点を克明に描いている。
 将来の経済政策の教訓を得るために、過去の経済事象を経済モデルで分析することは有益であるが、当時の政策担当者の考え方や行動原理を知ることも重要である。この点、本書は有益な示唆を与えてくれる。


(岩波書店、税込み2750円)

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