【Discovery 専門家に聞く】火災保険の不正請求業者に対峙

2023.03.31 04:45
インタビュー Discovery
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山本柴崎法律事務所 弁護士・吉竹大樹氏

山本柴崎法律事務所 弁護士・吉竹大樹氏


火災・地震保険の不正請求業者が絶えない。主に築古の一戸建てを狙い、「無料点検します」を口実に訪問。「保険を使えば、負担なしで自宅の修理ができる」などと工事契約を持ち掛けている。保険金は本来手数料なしで申請できるが、サポート料と称して3~4割近くを取ったり、請求のためにわざと屋根を破壊する業者も存在する。修理もずさんか、行わない場合も多い。国民生活センターと全国の消費生活センターに寄せられたトラブル相談は、2020年度は5359件と前年度の約2倍に急増した。火災保険を専門に扱う、山本柴崎法律事務所の吉竹大樹弁護士に、個人でできる不正請求への対処法、官民一丸での対応策などを聞いた。


官民一丸で注意喚起のチラシ作成◆お年寄りが狙われる 損保会社にまず相談
 不正請求業者は、19年9月に房総半島に甚大な被害をもたらした台風15号の後に急増した。多くの被災者が修理業者を見つけられず困っている状況に便乗したもようだ。
 保険金をせしめたことが成功体験となり、大規模な自然災害がない20年度も倍増した。主な被災地である房総半島を含む首都圏全域に加え、全国に被害が広がった。
 最近の不正は、ネットワークビジネスやフランチャイズの形をとるほか、違法・悪質な訪問販売などを取り締まる「特定商取引法」を避け、インターネットで集客するなど手口は巧妙化している。
 背後には暴力団などの反社会的勢力の影もちらつく。オレオレ詐欺で逮捕歴がある人間が、請求業者の代表を名乗るケースもあるようだ。
 主な被害者は高齢者だ。東京都内の消費生活センターに相談した人の年齢層は、60歳以上が約7割を占めている。
 対策としては、面識のない訪問者から「保険金が使える」と言われたら、加入している損害保険会社か損保代理店にまず相談することが有効だ。


◆官民一丸で対策 逮捕事例も
 保険金の原資は善良な契約者が払い込んでいる保険料だ。これ以上の不正な搾取を許さないため、損保会社で構成する業界団体の日本損害保険協会を中心に、警察庁や消費者庁、各自治体が官民一丸で対策を行っている。
 効果的な対策は、不正請求業者に「このやり方はリスクが高い」と思わせることだ。
 民事・刑事を含めた法的措置や行政処分などの対策を実施し、実際に埼玉県や神奈川県で不正請求業者を逮捕した事例も出てきた。さらなる刑事立件を目指して、損保協を中心に、不正請求事例の収集・分析などにも力を入れている。
 保険契約者への周知も欠かせない。介護施設やシルバー人材センターなどお年寄りが集まりやすい場所に、注意喚起のチラシを置くなどの取り組みを進めている。
 着実に成果は出ている。20年度をピークにトラブル相談は下降トレンドとなった。大規模な不正請求業者の撤退などもある。
 一方で、まだまだ油断はできない。保険金というお金に味をしめた同じ業者が、手を変え品を変え不正請求を行う可能性があるためだ。

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