【Discovery 専門家に聞く】エンタメの力で被災地を元気に ボランティア11年の軌跡

2023.03.17 04:45
インタビュー Discovery
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ぴあ株式会社取締役(一般社団法人チームスマイル常務理事)・小林 覚氏

ぴあ株式会社取締役(一般社団法人チームスマイル常務理事)・小林覚氏


2011年3月の東日本大震災で大きな痛手を負った被災地の人たちを、エンターテイメントの力で笑顔にしたい。「心の復興支援」を掲げたチームスマイルによるボランティア活動の期間は11年間におよび、当初の目標だった10年間を達成して、22年12月に幕を閉じた。通常、組織的なボランティア活動は経済的な理由から継続が難しいとされるが、なぜ長期にわたる取り組みが可能だったのか。この活動を中核企業としてけん引した、ぴあ株式会社の小林覚取締役(一般社団法人チームスマイル常務理事)にその背景を聞いた。


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◆被災地とアーティストをつなぐ
 震災直後、未曽有の危機に対し、企業として何ができるか悩んだ。まず思い浮かぶのは寄付金だが、お金以外でも自社のノウハウを使って貢献できることはないか考えた。ぴあは、コンサートや各種イベントのチケット販売や企画・制作・運営を手がける会社だ。当時は日本全国にイベント中止などの自粛ムードが広がっていたが、社内の現場レベルから自然発生的に企画が持ち上がり、震災の約2カ月後に渋谷駅のハチ公前広場に特設ステージを設けて、募金集めのライブを行った。これが11年間の活動の原点となった。
 当時、多くのアーティストが被災地のために力になりたいと考えていたが、著名人が現地で復興ライブを開こうとすれば、受け入れる被災地側に会場設営などの負担がかかる。また、ノーギャラで参加する場合でも、機材の運搬費や交通・宿泊費などはアーティスト側の持ち出しになる。復興支援は長期戦であり、ボランティア活動を長く継続するには双方に負担がかからない仕組みを作る必要があった。
 そこで、12年10月に一般社団法人チームスマイルを立ち上げ、まずは東京に3100人収容可能なライブハウス「豊洲PIT(ピット=Power Into Tohoku!)」を開設(14年10月)。そこでのイベント開催の事業収益で、東北3都市にも「いわきPIT」(15年7月)、「釜石PIT」(16年1月)、「仙台PIT」(同3月)をつくった。現地スタッフも置いて常態的な受け入れ態勢を整え、アーティストのギャラは無償ながら旅費などの実費は出せるようになった。


◆「夢の実現」応援プロジェクトも
 国からの補助金は一切出なかったため、結果的に純粋な民間のボランティア活動となった。東邦銀行を含む多くの企業や各界の著名人が一緒に活動してくれた。著名人にイベント出演などの協力を求めると「貢献できる場を作ってくれてありがとう」と快諾してくれて、実費さえ受け取ろうとしない方がどれほど多かったことか。
 豊洲PITでは観客に1杯500円のドリンクを購入してもらい、そのうち50円を寄付として預かり、被災地で若者の夢の実現を応援するプロジェクトに充てた。最終的に延べ180万人以上がドリンク代を介して寄付を行い、総額は9000万円を超えた。
 当初は10年間を区切りとしてボランティア活動を終える予定だったが、残り1年というタイミングでコロナ禍に見舞われ、それまで東北の3PITの赤字を補ってきた豊洲PITの事業収益が突如ゼロになった。それでも、エンタメが再び必要とされる時期が戻るまで耐えようと決め、結果的に22年12月に活動を終えた。
 震災でもコロナ禍でもエンタメ業界は苦境に立たされたが、チームスマイルの活動を通じて、エンタメには苦しんでいる人たちを勇気づける力があると実感した。エンタメが不要不急なものだという既成概念を変えるのは決して簡単ではないが、私自身は人々が生きていくうえで必要不可欠な酸素のような働きをするものだという思いを強くしている。

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