【Discovery 専門家に聞く】AIで人の仕事なくなるか

2023.03.03 04:45
インタビュー Discovery
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オズボーン氏

英オックスフォード大教授 マイケル・A・オズボーン氏


世界中で利用されるAI(人工知能)。金融業界でも、チャットボットや取引情報の分析といった領域で活用が広がっている。あいおいニッセイ同和損害保険は、AIを用いて交通事故の未然防止に向けた新サービスなどを開発。同社とその子会社は、英オックスフォード大学のAIベンチャーと損害保険分野で最先端の研究・開発を進めるため、共同研究所を2022年11月に設立した。同研究所のチーフサイエンティストで、AI研究の世界的権威でもあるマイケル・A・オズボーン同大教授に、AIの現状や利用法の留意点について聞いた。


AI


◆自動化が困難な領域も
 13年に発表した論文「雇用の未来」の中で、米国では10~20年のうちに労働人口の47%が機械に代替可能だと試算した。だが、全てのタスクが機械やAIにより、自動化されたとしても、人の雇用がなくなることはない。分析では、ソーシャルインテリジェンス(社会的知性)やクリエイティビティ(創造性)は自動化が難しい領域であるとの結果が出ている。
 例えば、損害保険における従業員の働き方を考えると、保険業務の中で自動化できることはあるとは思うが、現在のAIでは対応できない「人の行動や考え方を把握すること」に関しては、依然として人が必要だ。雇用が即座になくなるというわけではないだろう。
 AIが予想以上に進展した分野もある。それが、米オープンAIの「ChatGPT(チャットGPT)」のような大規模言語モデルだ。本当に人と会話したときのような返答があるし、長い会話もできる。コピーライティングやソフトウェアエンジニアリングの代替として、また検索エンジンに置き換わるものとして、より活用されていく可能性がある。ただ、本当に人が人を理解するようなところまでは到達していない。つまり、馬鹿なことを言わせるように、だますこともできるというわけだ。
 AIは使い方次第でリスクも伴う。その一つが、アルゴリズムの中にある偏見バイアスだ。例えば、米アマゾンでは、倉庫で働く従業員2500人のパフォーマンスをAIでモニタリングした結果、数百人が解雇対象となった。ただ、解雇だけでなく同じAIで採用も行った結果、履歴書の中身が同じでも採用率は女性より男性の方が高かった。人々の人生や生活に関わる判断をAIがしていたことを踏まえると、注意して使うべきだと思う。


◆4万人の人材不足も
 ここ10年、世界中で問題となっているのが、実際にAIを活用できる人材の不足だ。調査によると、約4万人のデジタルエンジニアが不足しているというデータもある。その理由は、大手テック企業が、データやコンテンツだけでなく、人材も独占しているからだ。
 特に、この5年近くについては、AIの専門家やデータサイエンティストの働き方のモデルを見ると、大手のテック企業と競争できるような新興企業を創業するのでなく、大手テック企業に買収されるような新興企業を作りたいという考え方があった。そのため、規制側や資本側で、大手テック企業を少し分解するような動きを促進する政治の動きが必要になる。一方、足元では大手テック企業が大量解雇の動きを始めており、風向きが変わりつつある。今後の動向を注視したい。
 金融業界は、AIが非常に得意とする豊富なデータを取り扱うことから、今後もAI活用が期待できる分野だ。ただ、最終的にはどのような規制の枠組みが導入されるかが肝となる。AIは間違って使うとリスクを生み出すのも事実だ。実際に取引で小さな事故が起きた事例もある。AIのアルゴリズムが金融の中でどの程度活用できるかは、規制当局の考え方次第ではないか。

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