【Discovery 専門家に聞く】「銀行×フィンテック」のオープン・イノベーションが進化

2023.02.03 04:45
インタビュー Discovery
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一般社団法人Fintech協会 常務理事・貴志 優紀氏

一般社団法人Fintech協会 常務理事・貴志 優紀氏


国内でフィンテック市場の急成長が始まってから10年近くが過ぎた。当初、既存の金融機関では台頭するフィンテック企業との「競合」を危惧する論調が根強かったが、近年は連携を通じて「共生」を目指す流れが強まっている。一般社団法人Fintech協会の貴志優紀常務理事(サステナブル・ラボ株式会社 CFO)にフィンテックに関する最新の状況を聞いた。X-Tech


◆22年の投資額は約半減、調整局面に
 世界のフィンテック企業への投資実績は、2022年に金額が対前年比で46%減少した。ただ、件数は同9%の減少にとどまっている。1件当たりの投資金額が小さくなり、投資先企業の成長段階が、レイターステージからアーリーステージにシフトしたことを示している。
 21年はコロナ禍の影響で働き方などがドラスティックに変わり、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速度的に進んだため、投資金額・件数ともに大幅に増えた。22年はDXの流れがやや落ち着いたことに加え、ロシアのウクライナ侵攻や金利上昇による景気後退懸念などのマクロ環境もあり、一旦調整に入った格好だ。
 ただ、22年の投資金額を2年前の20年と比較すると50%の増加であり、大局的には右肩上がりの成長が続いている。ヘルステックやアグリテックなど多様なセクターのテック企業がある中で、フィンテックへの投資額は上位を維持している。日本でも、22年12月に三菱UFJ銀行が有力スタートアップの株式会社カンム(東京)に約160億円を出資して連結子会社化するなど、依然としてフィンテックに対する注目度は高い。


◆ESGフィンテックが国内外で台頭
 当協会は、15年9月の設立から8年目を迎えた。関係者が専門的な研究・討議を行う場として、「融資・与信」や「送金・決済」などのテーマ別に分科会を設けており、昨年は新たに「ESG・サステナビリティ分科会」を立ち上げた。
 投資の意思決定にESGファクターを組み込む金融機関が増えており、投資を受ける側の事業会社でも関連情報を適切に開示しようとする機運が高まっている。そうした課題に対応するため、ESGフィンテックのスタートアップが国内外で多数出てきている。
 銀行界では、法人顧客をより深く多面的に知るために、サステナビリティ系の非財務データに着目して投融資判断や商品開発につなげようとする意識が高まっている。また、銀行自身のサステナブル経営の一環として、投融資先の二酸化炭素(CO2)排出量をモニタリングする要請が強まっており、CO2排出量を可視化するスタートアップとの業務提携も増えてきている。
 去年は「オープン・イノベーション勉強会」も立ち上げた。連携する業種の組み合わせには「銀行×フィンテック」と「非金融会社×フィンテック」の二つの軸があり、テクノロジーの進展に伴ってニーズが高まっている。前者の組み合わせでは、銀行がエンドユーザーにどういう形で商品・サービスを届けるかという部分で、UI(ユーザー接点)・UX(ユーザー体験)の改善が求められている。例えば、チャットボットにAI(人工知能)機能を組み込んだデジタル・アシスタントは、将来的にコールセンターの代替になりうると期待されている。
 非金融会社の既存サービスに金融機能を組み込むことを「エンベデッド・ファイナンス(組み込み型金融)」と呼ぶが、最近は海外メディアで「エンベデッド・フィンテック」という新語が頻出している。銀行のさまざまな業務にフィンテックを組み込むもので、DXの延長線上にある動きとして日本でも今後注目を集めそうだ。

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