【推薦図書】『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』(フランス・ドゥ・ヴァール著)
2023.02.03 04:45
【推薦者】三菱UFJニコス副社長・榎本真樹氏
共感と思いやりの起源
連日多くの人がウクライナ情勢に心を痛める。あるいは各地で頻発する自然災害の被災地で救援のボランティア活動が行われる。この私たちの共感(*他者と繋がりをもち、他者を理解し、相手の立場に立つ能力)や利他性(*他者を深く思いやり助ける行動)はどこから来るのか。(*著書からの引用)
霊長類研究の第一人者である著者によれば、共感は殆どの哺乳類に見られる行動であり、1992年のマカクザルでの「ミラーニューロン」の発見は共感が細胞レベルの働きであることを示唆する。
また、チンパンジーでも命を賭して他者を助ける行動がみられることから、人間の共感や利他性は進化の結果として獲得した特別のものではなく、本来備わっている普遍的な特性であるとする。そしてこの特性こそが人間社会の土台であり、これを無視して、社会、組織で競争を煽っても良い結果が得られないと主張する。
日本人に古くから馴染みのある「利他一如」や論語の「恕(思いやりの心)」の考えが動物行動学的にも裏付けられている様であり興味深い。現代の課題は共感と利他性で全て割り切れるほど単純ではないが、「人間には生まれながら思いやりの気持ちがある」との主張に少なからず希望を感じ、それによって社会が少しでも良い方向に向かうことを願わずにはいられない。
(紀伊國屋書店、税込み2420円)