【Discovery 専門家に聞く】世間が抱く年金不安は本当? 正しく理解し対策を
2023.01.20 04:45大和総研 主任研究員・是枝俊悟氏
政府は5年に1度、公的年金の財政が将来にわたって持続可能か点検を行う。その「年金財政検証」を2024年に控え、厚生労働省は昨年10月から社会保障審議会年金部会での議論をスタートさせた。同部会の委員を務める是枝俊悟・大和総研主任研究員は、「35歳から創る自分の年金」の著書もある年金問題のスペシャリスト。働く世代が年金制度に抱く負のイメージについて、その実態や将来の展望を聞いた。
Q)少子高齢化の影響は?
日本の公的年金は賦課方式。その年に現役世代が支払った保険料で、その年に給付する年金が賄われる仕組みだ。保険料は基本的に現役世代の賃金に連動しており、今はまだ賃金の総額が増えている。定年後も働き続ける高齢者が増え、女性の就業率も上がっているからだ。少子高齢化の影響は大きいが、足元で財政状況が急激に厳しくなるという状況ではない。
Q)現役世代が受け取れる年金の額は減る?
政府の将来シミュレーションは、「会社員の夫が平均賃金で40年間働き、妻は40年間専業主婦」というモデル世帯をベースに計算されている。04年に年金制度を大改正した際に、「モデル世帯の支給額で見て、現役世代の所得の50%以上を確保し続ける」と決めた。
ただ、今後はモデル世帯よりも多い金額の年金を受け取る世帯が増えていく。今の20、30代を見渡すと、「寿退社」の文化はほぼなくなった。出産後も、女性の半数以上が職場に復帰しており、前提が大きく変わった。
Q)では、極度に心配する必要はない?
その一方で、年金だけでは生活が苦しい属性の人もいる。例えば、非正規労働者など厚生年金に入っていない人は、国民年金だけでは生活が厳しいので、政策的な手当てが必要だろう。
単身世帯も同様だ。2人分の年金での2人暮らしに比べ、1人分の年金での1人暮らしは厳しい。特に、平均年収の低い女性の方が老後の貧困が懸念される。貯蓄で備えることも大事だか、それだけでカバーするのは難しい。親戚や友人など、高齢期を一緒に過ごすパートナーを探すのも一つの方法だろう。
Q)老後資金を貯める、おすすめの手段は?
個人的な意見だが、若年層は万一の場合の生活費として最初に預金で100万円を貯め、その後にNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を検討してはどうか。急におカネが必要になる機会があるなら、いつでも引き出せる前者の方が使いやすいだろう。
また、40、50代からiDeCoを始めても決して遅くはない。最長65歳まで掛け金を拠出でき、所得控除も受けられる。
Q)65歳を原則とする支給開始年齢のさらなる引き上げはありえる?
ないだろう。一律に引き上げれば、世代間の格差が広がりすぎる。例えば、支給開始年齢を65歳から70歳に引き上げると、総支給額が2割近く減ることになる。
04年改正で「マクロ経済スライド」が導入された。「既に年金を受給している人も含め、皆の年金額を少しずつ一様に減らしていきましょう」という形に変わっており、その方法は変わらないだろう。
Q)繰り上げ受給や繰り下げ受給を選べば、受給開始年齢を60~75歳の間で自由に設定できる。何歳からがいいのか?
何を重視するか次第だが、年金の保険機能を最大限に生かすなら、受給開始年齢を少しでも遅らせた方が長生きに備えられる。65歳から1年遅らせるたびに年金額は8.4%増える。貯蓄があるうちはそれを取り崩して生活し、その後、増えた水準の年金で暮らす方が安心だろう。貯金はいずれ底をつくが、年金は基本的に減らない。