識者インタビュー③ 米倉・法政大教授「銀行とVCは一番遠い存在」
2023.01.09 04:50
開口一番「やめたほうがいい」――。日本のイノベーション研究の第一人者である米倉誠一郎・法政大学経営大学院教授(一橋大学名誉教授)は、銀行のベンチャー投資に待ったをかける。その真意と銀行の目指すべきビジネスモデルについて聞いた。
――銀行は投資専門子会社を通じてどのようにスタートアップを支援していけばいいですか。
「銀行とベンチャーキャピタル(VC)は一番遠い存在だと思っている。昔、シリコンバレーで、『VCというのは助手席に乗ることだ』と聞いた。VCは融資と違って投資だから、利払いもなければ、保全されることも絶対にない。銀行の融資とは基本的に性質が違うから、非常に難しい。ただ、銀行にお金があるのであれば、リスクマネーの出資と割り切りポートフォリオをきちんと組んで、プロに運用を任せるのが一番正しいと思う」
――今、求められている銀行のビジネスモデルは。
「経済学者のシュンペーターは、『銀行の一番重要な役割は信用創造』と言ったが、今の銀行はできていない。イノベーションに燃料を送るための信用創造を、どうしていかないといけないのか真剣に考える必要がある。昔の〝バンカー〟は勘と経験、人物眼でこの人は融資に足る人物だと判断していた。今は、必要なデータを集める仕組みを作り、かつ勉強をしていれば、どの事業が伸びていくのかが見えてくる。かつてのバンカーが行っていた信用創造をデータとともに、誰かとコラボレーションして行うべきだ。自前主義はやめたほうがよい」
「VCと違う形で助手席に座り、中小企業に『こういう運転をしていきましょう』と指南することだ。そうすれば、新たな融資、そしてそのリターンが生まれていく。融資先の事業が大きくなってくれば、さらなる投資につながる。データを活用し、中小企業とともに強くなっていく道はある」
――厳しい事業環境のなかで、銀行経営者に必要なマインドは。
「ないものを嘆くのではなくて、あるものを強く、強いものをより強く、そういう方針でいくことが重要だ。どのようにしたら、日本の事業構造のなかでフィーが得られるかを考えないといけない。地方分散、デジタルトランスフォーメーション(DX)、人口減少、事業承継問題など、日本はどこに行くのかというビジョンを持ってないと、経営はできない。『この水はどこに流れていくのだろうか』という視点が重要だ」
次回は1月10日に<識者インタビュー④ 松本・元FVC社長「VCと同じ土俵で戦う必要ない」>を掲載します。
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