専門商社の「黒字廃業」危機、りそな企業投資が救う
2023.01.01 04:45
銀行の金融仲介モデルが転換期を迎えている。後継者がいない中小企業の事業承継やスタートアップの育成など、伝統的な融資だけでは対応できない課題に直面しているからだ。こうしたなか、新たな選択肢としてエクイティ投資に取り組む銀行が増えつつある。積極的なリスクテイクで地域経済に活力を取り戻し、銀行自らの持続的成長につなげる――。そんな好循環を生み出せるか。
「黒字廃業」に危機感
「90歳を過ぎた創業者に、もしものことがあれば黒字でも会社をたたまざるを得なかった。従業員40人の雇用を担保でき、本当にありがたい」。高周波部品などを輸入・販売する扶桑商事(東京都千代田区)の大島俊一社長(63)は、りそなホールディングス(HD)傘下の投資専門会社、りそな企業投資が2021年9月に同社の全株式を取得したことに深く感謝する。

23年に創業60周年を迎える専門商社の同社。売り上げは数十億円規模で堅調に推移する一方、多くのオーナー企業と同様に事業承継が経営課題になっていた。三井物産出身で14年にヘッドハンティングによって中途入社した大島社長は、4年半ほど前から当時会長で現顧問の創業者と、具体的な対応策を話し合うようになったという。
創業者の親族が経営を引き継ぐことは難しかった。そこで創業者が保有する株式のみを創業家が相続し、資本と経営を分離する案を模索したが、株を持つ重さがネックとなりかなわなかった。次に検討したのはM&A(合併・買収)による会社譲渡。だが、相手先として可能性が高い同業他社との合併は事業特性上の問題が大きく、「決してプラスにならない」(大島社長)のは明白だった。
出資規制緩和が転機
解決の糸口が見いだせないなか、19年10月に扶桑商事の運命を左右する制度改正が実現する。中小企業の後継者不在問題を憂慮した政府が、銀行による事業承継支援を目的とした一般企業への100%出資を解禁した。それから約2年後、同社は実際にりそなグループから規制緩和を活用した支援を受けた。大島社長は、「(創業者の年齢から)ぎりぎりのタイミングだった」と振り返る。
19年の規制緩和は、原則5%が上限である銀行の出資規制を見直し、事業承継に課題を抱える企業を対象に投資専門会社経由で最長5年間の全額出資を認めた。銀行には、創業者以外にも広く分散している株の集約や、ハンズオン支援による企業価値の向上を図ったうえで、次の株主(経営陣)にバトンをつなぐ役割が期待された。取得時よりも高く株を売却すれば銀行も収益を得られる。
銀行界では19年以降、規制緩和を要望していた地方銀行を中心に投資専門子会社の新設が相次いだ(表)。りそなHDが21年1月に設立したりそな企業投資もその一つ。同社は同4月に総額100億円で事業承継ファンドの運用を開始。扶桑商事は1号投資案件で、22年8月には2件目の投資も実行した。市橋謙一・りそな企業投資社長は「これまでに120社と面談し、約20社と秘密保持契約を締結した」と相応のニーズを感じ取る。
りそなグループは中堅・中小企業が主要顧客基盤であるため、早くから事業承継支援に注力してきた。主に株価が高い後継者不在企業には、受け皿として外部のバイアウトファンドも紹介してきたが、「旺盛な需要からファンドがサイズアップし、我々の顧客の規模では投資対象になりにくくもなっていた」(同)。自前でファンドを立ち上げた背景には、こうした事情もあった。
事業再生案件も対象
21年11月にはもう一段の規制緩和があり、銀行は事業再生案件やベンチャー企業、地域活性化会社にも全額出資しやすくなった。銀行経営に詳しい東洋大学の野崎浩成教授は、「日本の金融システムは間接金融が中心だが、法人金融はデットよりエクイティのニーズが高くなってきている」と指摘。銀行が出資を通じて企業を支援することは意義があると語る。
めぶきフィナンシャルグループ(FG)の秋野哲也社長は、「長期的な視点でリスクをお客さまと共有していく本気度がより試されている」と強調する。同FGは21年に投資専門会社2社を立ち上げ、投資分野やエリア別に計10本のファンドを運用している。通常の融資と比べてリスクの高さなどに難しさもあるが、企業の課題解決を後押しする方法の一つとして活用を進める構えだ。
次回は1月2日に<銀行の強みは「地元の小規模案件」にあり>を掲載します。
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