金融行政2022 脱コロナへ政策でそろう 「顧客本位」を再度強調
2022.12.30 04:45
コロナ禍が続くなか、ロシアのウクライナ侵略や物価高が日本経済に影を落とした2022年。金融行政を巡っては官民で作った中小企業向け事業再生ガイドラインの運用が始まり、政府は私的整理の円滑化につながる新制度の創設へ作業を開始。脱コロナ禍への政策が出そろう一年になった。金融商品販売では行き過ぎた仕組み債の営業に焦点が当たり、金融庁は集中的なモニタリングに着手。一方でNISAの抜本的な拡充が決まり、金融機関が「顧客本位の業務運営(FD)」から逃げられない環境整備が進んだ。
事業再生に新たな仕組み
全国銀行協会が事務局を務める研究会が策定した「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」には、弁護士などが金融機関と中小企業の間に立って事業再生を進める新たな仕組みが盛り込まれ、4月に運用が始まった。10月には債権者が多数決で私的整理を決議できる制度の創設を目指し、内閣官房が有識者会議を設置した。

実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資を100%保証で借り換えられる融資制度の用意も12月の22年度第2次補正予算成立で決まり、コロナ禍で苦しむ事業者の立ち直りを後押しする金融支援策の具体化が進んだ。半面、9月には中日信用金庫がゼロゼロ融資の不正で行政処分を受け、危機時の対応に潜んでいた問題も顕在化した。
経営者保証解除へ説明義務化
コロナ禍の金融支援は、成長を目指す事業者支援の枠組みを見直すきっかけにもなった。特に焦点が当たったのが、金融機関が融資先の経営者に求める個人保証。金融庁は11月に監督指針の改正案を示し、経営者保証を求める金融機関に徴求の必要性や解除要件の説明を義務付ける方針を打ち出した。金融審議会の作業部会で議論が本格化した事業成長担保権の創設も、経営者保証の解除を促進する取り組みの一つに数えられる。
取引先支援を進めるため、きらやか銀行は無期限の公的資金の申請検討を開始。コロナ禍対応のため設けられた金融機能強化法の特例を活用する初のケースになる可能性がある。
仕組み債の販売姿勢に警鐘
金融庁が金融商品販売における「顧客本位」の重要性を改めて強調する一年にもなった。1月に外貨建て保険の運用成績を同じ基準で比較できる共通KPIを策定し、各金融機関は3月期から指標の公表を開始。FD原則に沿った経営状況の開示では、取り組み方針に加えて具体的な活動の記載も求める仕組みに改めた。
仕組み債の販売についても警鐘を鳴らした。高い利回りを期待できる一方、対象株価の下落が大幅な元本割れにつながるリスクも大きい他社株転換債の販売に関する苦情の増加を問題視。証券会社を傘下に持つ地域銀行グループでも販売が広がっていたため、モニタリングを強めた。12月にとりまとめられた金融審タスクフォースの中間報告では、利益相反が生じる可能性や仕組み債の組成コストに関する情報開示の制度化が提言されている。
官邸主導でNISA拡充が実現
岸田文雄首相の強い意向で決まったのはNISAの拡充。与党税制調査会の結論を待たず、官邸主導で制度の恒久化と保有非課税期間の無期化を打ち出した。つみたてNISAと一般NISAを合わせて年間360万円まで投資できる制度に変わる予定で、資産形成の加速が期待される。

金融機関を縛る規制の緩和や負担軽減も実現した。同一グループ内の銀行・証券会社間の情報共有を遮断するファイアーウォール規制は6月に緩和され、上場企業の場合は事前に同意を得る必要がなくなった。ただ、相場操縦事件で10月に行政処分を受けたSMBC日興証券に規制違反が認められたため、さらなる緩和の議論は停滞。非上場企業への対象拡大は見送られた。
また、金融機関の預金保険料率は半減。22年度の料率は前年度の0.031%から0.015%に下がり、金融界全体で約1800億円の負担軽減につながった。
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