【推薦図書】『「一生モノの物理学」文系でもわかるビジネスに効く教養』(鎌田浩毅・米田誠著)
2022.12.16 04:45
【推薦者】東和銀行取締役常務執行役員・鈴木信一郎氏
物理学視点で根源的原理を探求
今から40年ほど前の学生当時はエレガントなマクロ経済学に惹かれ、新古典派総合や合理的期待形成仮説などの経済理論を起点に世の中を説明できないかなどと考えた時期もあったが、その後の社会人生活では実務に追われ、個々の経済事象の根源的な原理まで立ち戻る機会はほぼなかった。そのような気持ちを漠然と持ったまま今年のノーベル物理学賞のテーマ「量子もつれ」の報道に接し、本書を手に取った次第である。
本書は大学教授と予備校講師という物理学の専門家2名が、日常生活の様々な事象はいずれも物理学と直結していることを11件のトピックスで解説している。
医療における内視鏡やX線・CT・MRI検査の仕組みから気象現象、電子顕微鏡のメカニズムなどカバー範囲は広大である。また、巻末の物理発展の年表や参考ホームページ、おススメ書籍にも著者達の熱量を感じる。
前段の「量子もつれ」とは、光の粒などの量子がお互いどんなに離れていても、片方の量子の状態が変わるともう片方の状態も瞬時に変化する現象で、この特性を利用して次世代量子コンピュータの開発などが進んでいる。本書はこうした最先端の物理学を身近にする上での啓発書としても有用と思われる。
(祥伝社、税込み1760円)