【Discovery 専門家に聞く】協同組織に学ぶ「顧客の望みをかなえる」ビジネス

2022.12.09 04:45
インタビュー Discovery
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農林中金総合研究所 主任研究員・古江 晋也氏

農林中金総合研究所 主任研究員・古江 晋也氏


協同組織金融機関は営業地域の範囲が限定されていて、貸し出し可能な先にも制限がある。一見するとハンディのようだが、だからこそ地域に密着し、地域のことを定量的にも定性的にも知り尽くしている。そこが強みであり、地域の事業者や個人に対して「最後の貸し手」としての機能を果たしている。協同組織金融を長年研究し、4月に著書「隣の協同組織金融機関」を出版した古江晋也・農林中金総合研究所主任研究員にその特性を聞いた。


全国の協同組織金融機関(2022年3月)あえて非効率の選択も
 入社以来、150先以上の信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合に足を運び、財務諸表の数字だけでは捉えきれないビジネスモデルについてヒアリングを重ねてきた。その中で学んだことは、特定の地域でしか活動できない協同組織の場合、地域にどれだけ求められるかという発想でビジネスモデルを作り上げない限り、生き残れないということだ。全国規模の大手金融機関と同じようなビジネスモデルでは、その前提を失う。
 顧客の声を聞きながらオリジナルの商品・サービスづくりをしてきた協同組織ほど、地域の人々から必要とされている。規模の経済が働きやすい金融業界ではボリュームで競争する部分も確かにあるが、「選ばれる金融機関かどうか」は別問題だ。小規模でも業績の良い金融機関には、あえて非効率を選択するところも少なくない。
 例えば、硬貨の取り扱いが多い公衆浴場業者を主な組合員とする東浴信用組合は、集金や両替の無料サービスに力を入れている。温泉街に支店を持つ福島信用金庫は、視覚障がいのあるあんまマッサージ指圧師からの要望に応え、通帳や証書に点字を刻印している。これらは全国一律のサービスを提供する金融機関には難しい取り組みだろう。


“顔見知り”もインフラ
 金融界では、効率性の観点から有人店舗の統廃合や訪問活動の縮小が進んでいる。ただ、日本は災害の多い国だ。顧客と顔見知りであることは、災害時に強力な地域インフラとなる。東日本大震災の際、石巻商工信用組合は店舗の半数が全壊・半壊したが、週末をはさんだ翌営業日に業務を再開。印鑑や通帳がなくても10万円を限度に手作業で預金を払い出し、結果的に預金勘定の不足は生じなかった。
 復旧・復興段階でも、素早く融資に対応できるのは地元に金融機関があるから。協同組織金融機関は市町村単位のリーディングカンパニーであり、その地域に存在し続けることが最大の地域貢献だと感じる。
 大手金融機関から最先端の取り組みを学ぶケースは多いが、その一方で協同組織に学ぶべき点も多い。他業態の金融機関には、顧客の要望を商品・サービスづくりに生かす姿勢をぜひ学び取ってほしい。

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