【Discovery 専門家に聞く】なぜ日銀だけが利上げに動かないのか?
2022.11.11 04:45![みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部主席主任エコノミスト・上村 未緒氏](https://img.nikkinonline.com/wp/wp-content/uploads/2022/11/n20221111_015.webp)
みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部
主席主任エコノミスト 上村 未緒氏
世界の主要な中央銀行がインフレ退治のために軒並み金融引き締めにカジを切るなか、日本銀行だけはマイナス金利政策を継続している。物価高による生活苦や急激な円安の影響を懸念する声が日ごとに高まるなか、日銀はなぜ利上げに動かないのか。日銀ウォッチャーでもある、上村未緒・みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部上席主任エコノミストに背景を聞いた。
引き締めなら景気減速や金利急騰リスクも
日本では、急激な円安や資源価格の高騰の影響を受け、輸入物価や消費者物価指数(CPI)の上昇率が高まっている。足元では、食品や飲料などの値上げも相次いでおり、国民の中には「なぜ日銀は動かないのか」という疑問を抱く人が増えている。
欧米の物価上昇率は金融政策の物価目標2%を大幅に上回っており、それと比べると日本は同3%程度の上昇率で相対的にはさほど高くない。米国の場合は、強い需要と賃金の上昇が物価上昇の背景にあり、賃金と物価のスパイラル的なインフレが懸念されている。だからこそ、米国連邦準備制度理事会(FRB)は大幅な利上げにより需要を冷やす金融政策を実施している。
一方、日本のCPI上昇率は、政府・日銀が掲げる物価安定目標(前年比上昇率2%)には達しているものの、要因をみるとエネルギー高が主因となっており、日銀が目標とする、賃金上昇を伴う安定的な物価上昇とは異なる状況にある。また、日本経済は欧米経済と比較するとコロナ禍からの回復ペースが緩慢であり消費の戻りは相対的に遅い状況となっている。海外経済の減速など先行きの不確実性が高いほか、足元は金利上昇圧力が非常に強く、こうした状況下では日銀は金利の引き上げなど金融引き締め的な政策に動けないという見方が強い。
黒田総裁交代後も政策変更は望み薄
日銀の黒田東彦総裁は、来年4月に任期満了を迎える。現時点で次期総裁は未定だが、誰が後任になったとしても、今の経済・物価環境を考えれば交代後に急に金融緩和の枠組みを変えるとは考えにくい。2023年に予想される円安修正を踏まえれば、金融緩和が維持される可能性は高い。足元の円安の主因は、米国との金融政策の違いによる金利差の拡大である。2023年は金融引き締めの影響で欧米が景気後退に入り、欧米の長期金利は低下、日米の金利差も縮小して円安が収まることになるだろう。
ただし、次期総裁の5年間の任期中には、過去の金融緩和の効果や副作用を検証したうえで政策変更が検討されるかもしれない。その際に、今後の日銀の動きを予測するうえで、注目すべき資料や指標はなにか。一つは、日銀の考えを探るにあたり、年4回(1月、4月、7月、10月)公表される「経済・物価情勢の展望」(通称・展望レポート)がヒントになる。もう一つはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)であり、特に重要なのは賃金の動向やCPI上昇率である。もっとも、持続的・安定的な物価上昇につながるような賃上げの動きが企業に浸透するかどうかは簡単なハードルではない。
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