バンカーを輝かせる業績評価 第2回 改革という名の逆風
2022.11.07 04:46コスト削減の副作用
私は銀行員が輝けば、銀行もお客様も輝くと信じています。
長引く低金利、フィンテック企業の台頭、人口減少、資金需要の低迷、他行やIFA(金融商品仲介業者)との競争環境激化等を背景に、銀行の取り巻く事業環境は厳しい状況が続いています。日本の金利が上がれば銀行収益は回復する、という単純なものでもありません。
そのようななか、各銀行は環境変化に対応するため「次世代型金融」の在り方を模索し、主に以下のような改革を実行することで、営業店を「事務の場」から「コンサルティングの場」へ転換する等、営業店の存在価値やその意義を変えています。しかし、各銀行がトップライン収益の確保に難航するなか、コスト削減によるボトム収益の確保するための動きが、銀行員やお客様にとって相当な逆風となっていることを忘れてはなりません。
第一に「業務効率化(DX)」。銀行は、かねてより銀行員が行っていた事務全般を、テクノロジーの活用、また事務センター集約等によりコスト削減に繋げています。一方、銀行員にとっては、これまで培った業務経験を否定されるに等しく、希望していない事務職から営業職への配置転換等、煮え湯を受け入れざる得ない状況です。また、お客様にとっても、高齢のお客様はスマホやパソコンに不慣れな方が相対的に多く、総じてニーズに合致しているとは言い難い印象を受けます。
第二に「店舗削減」。銀行にとっては固定費削減に大きく貢献します。一方で、銀行員にとっては支店長ポストの大幅な減少を意味しており、自身のキャリアプラン構築とモチベーションの維持が課題になります。また、顧客にとっては、近隣に支店が無くなることから、利便性が著しく悪化することも忘れてはなりません。
第三に「人員削減」。銀行は安定したイメージを維持するため、対外的にリストラは発表しづらいものですが、新卒採用を抑制することで人員削減を促進する計画を打ち出し、その体裁を整えています。しかし、銀行員にとってテクノロジーを活用した業務効率化と言っても、人員減少の速度がそれを勝るため、日常の業務負担は総じて増加している現状です。また、店舗予約制を採用する銀行が増えています。支店統廃合による物理的距離に加え、スマホ完結出来ない手続きが多く残るなか、顧客にとっては「すぐに銀行に行けない」という心理的距離も生まれています。
第四に「働き方改革」。昨今、副業の解禁やテレワークの進展もあり、銀行員の働き方の柔軟性は向上しているように見えます。しかし、副業やテレワークを選択する場合、勤務日数や勤務時間(残業代含む)が減ることは給与カットと同義であり、それを選択する銀行員は限定的でしょう。また、実質的に降格に近い役割変更、退職金の減額もあり、銀行員は総じてモチベーション維持が課題となっています。
最後に「業績評価」。前回お話をした通り、現行の業績評価は、収益一辺倒の姿勢が強まり、また、残高比例評価へ移行すると言っても、評価対象となる預り残高の水準は、準富裕層レベルを想定している等、収益確保のメッセージを強く打ち出したものになっています。また昨今は、「本部リードの目標設定」から、「支店独自の目標設定」という建付けを変える銀行が増えており、その結果、支店長は言い逃れが出来ない状況に追い込まれ、その煽りを受けた若手・中堅行員は、銀行員としてのモチベーション低下に繋がっている点は否めません。また、役員定性評価を導入する銀行が増えており、その評価の不透明さは、より内向的な銀行体質を助長しています。
疲弊する人財への解決策
このような各改革は、銀行サービスにおいて唯一の差別化要因と言える「銀行員」を疲弊させています。そもそも、冒頭の環境変化を背景に、銀行サービスは一層差別化が困難な状況であり、銀行員はやりがいを感じづらくなっています。
銀行の財産は「銀行員という人財」であり、5年、10年、20年先、将来の銀行を担う人材を潰してはいけません。ここ数年、各銀行はボトム収益確保のためコスト削減を進めてきましたが、その代償として将来の銀行を担うはずだった若手や中堅行員の多くを流出させています。今まさに銀行に必要なのは、コスト削減方針からの転換であり、トップライン収益の向上に資する新しいサービスの構築(Not新商品)と、銀行員がやりがいと未来を感じる設計図(業績評価)を作ることではないでしょうか。
※次回は12月5日(月)予定です。
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日本資産運用基盤グループ 金融ビジネスアナリスト 直井 光太郎 氏
2010年早稲田大学教育学部卒。みずほ銀行入行。法人RMとして、主に大企業から中堅・中小企業への事業資金支援や、事業承継や組織再編支援、企業再生支援を行う。また企業オーナーへの資産運用提案や資産承継提案など、法人個人問わず、幅広い顧客ニーズに向き合い、行内表彰も数多く受賞。
21年日本資産運用基盤グループに参画。金融ビジネスアナリストとして、銀行の課題解決に向けたソリューション開発や提案活動を行う。
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