【推薦図書】『鹿男あをによし』(万城目学著)
2022.11.04 04:45
【推薦者】財務省主計局次長 前田努 氏
月下のファンタジー
この10月、「おん祭」で有名な奈良春日大社若宮で20年に1度の式年造替(しきねんぞうたい)が完了した。春日大社に祀られる武 甕 槌 命(たけみかづちのみこと)は、常陸国鹿島神宮より鹿に乗って来られたと伝えられ、奈良の鹿は古くから神鹿として保護されてきた。本書はその鹿が「さあ神無月だ-出番だよ、先生」と人語を話すところから始まる、直木賞候補にもなった小説である。
著者の万城目学氏は平成18年に「鴨川ホルモー」でボイルドエッグズ新人賞を受賞した作家で、関西各地を舞台とする奇想天外な物語の数々は「万城目ワールド」とも称されている。本書でも、生徒のざわめきまで聞こえてきそうな学園生活という「リアル」と、邪馬台国の女王卑弥呼から60年に1度地震を起こす大なまずを鎮める儀式が受け継がれているという「イマジネーション」との混在が、上質な大人のファンタジーとなっている。
物語は満月の夜の平城宮跡でクライマックスを迎える。天平の官人阿部仲麻呂は、客死した唐で「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」と望郷の想いを詠んだが、時を超えて同じ月を眺めに、そして月下に紡がれるファンタジーに耳を傾けに、秋の夜長の散策に出掛けたくなるお薦めの一冊である。
(幻冬舎文庫、税込み825円)
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