【緊急取材】円安の波紋 苦悩する企業、金融機関に相談殺到

2022.10.28 04:45
為替 取引先支援
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク
ONIMG_0352

急激な円安ドル高の影響を受け、地域金融機関の取引企業が悲鳴を上げている。メインバンクや取引金融機関に対して窮状を訴える相談が増えており、営業店や担当部署では対応に追われている。これまで円高ドル安に悩まされる局面は多かったものの、32年ぶりの円安水準は大半の金融関係者にとっても〝未知の世界〟。いま現場で何が起きているのか、全国の金融機関に緊急取材をおこなった。


電気料金が高騰、「このままでは赤字」


最近、東北地区の地方銀行支店長は地元のスーパーマーケットから深刻な相談を受けた。「(契約している)新電力から値上げを打診され、他の電力会社に問い合わせたが、そちらの料金も高くて困っている。さらに、店舗で取り扱う商品も多くが値上げされており、売り上げが伸び悩んでいる。このままだと赤字になりそうだ。どうしたらいいか」という相談内容だったという。相談を受けた支店長も「明確なアドバイスができず、悩んでいる」と明かす。


原油高に伴う電気料金の高騰は全国的な問題だ。静岡県の信用金庫役員は「原油価格の高騰により、電気代が1.5倍程度に上がった取引先も多い」と話す。四国地区の地域銀行支店長は、製造業の取引先から「製造コストの引き下げにつながる省エネ化の相談が増えている」という。関西地区の信金が実施した中小企業アンケートでは、「景気が上向いて受注が増えれば、それだけ電気を使う量も増える。電気代が(経営の)重しになる」(鋳型鋳造業者)などの声が目立った。


住宅市場への影響も懸念されている。東海地区の信金支店長は「近くで住宅開発があるが、まだ価格が提示されていない。資材高騰で値付けが難しいのだろう」とみる。首都圏の労働金庫関係者は「エコ住宅に使われる太陽光パネルや蓄電池の部品供給が滞っており、住宅の納期遅れが住宅ローンの実行の遅れにつながっている」と語る。


為替予約が急増、深まる運用難の悩み


金融機関の業務にも異変が起きている。


中国地区の地銀には、為替予約に関する問い合わせが殺到。10月は前年同月の1.5倍に急増した。「特に船舶関連や自動車製造業が多い」という。そのため、「今後は為替予約契約の提案を積極化する」姿勢に転じた。


東北地区信金で資金運用を担当する役員は「当金庫の自己運用は、為替ヘッジ無しの外国債券に含み益が出ている一方で、ヘッジ有りの外債のヘッジコストは上昇している。日米金利差の拡大と円安進行を考えると、今後は外債に投資しづらくなるだろう。ますます運用の選択肢が少なくなる」と頭を抱える。


関東地区信金の預かり資産担当部署は「総じて既存顧客(のパフォーマンス)にはプラス、新たに運用を始めようという顧客には(投資の)ハードルが高くなった」と話す。


進まぬ価格転嫁、値上げ交渉が課題に


北陸地区の信金支店長のもとには「小売業や飲食業の取引先から『値上げをしてもいいだろうか』という相談が増えている」という。支店長は「もし値上げするなら、大手が値上げしている今のタイミングを逃すと、逆に難しくなる」と助言しているが、中小企業では価格転嫁のハードルは高いようだ。


東北地区の信組役員は「今回の円安で影響を受けているのは食品加工業。資材や輸送運賃が値上がりしているが、価格転嫁は思うように出来ていない」と話す。農業分野でも「農業者の資材、肥料などの仕入れに直接かかわってくる」(北陸地区のJA関係者)と心配する声があがっている。


一方、関東地区の地域銀役員は「取引先へのヒアリングでは、予想以上に価格転嫁が進んでいると実感。価格転嫁が進んでいない企業との業績格差が鮮明になるのではないか」と予測する。


こうした現状を踏まえ、価格転嫁を後押しするためのセミナーを企画する金融機関が増えている。兵庫県の信金は、9、10月の取引先向け勉強会で円安をテーマに取り上げた。特に、9月は「効果的な値上げの方法」を紹介し、参加者から好評だったという。11月の勉強会でも、円安をテーマの一つに設定する予定だ。東京都内の信金も、10月下旬に製造業の取引先向けに価格交渉セミナーを開いた。


足を使って情報収集、ヒアリングを強化


各金融機関は地元企業への影響を把握するため、足を使った情報収集を強化している。


ふくおかフィナンシャルグループは、約1万7000社の取引先に対し、円安と物価上昇の影響についてヒアリングを実施。約3割が「資金繰りに影響があるだろう」と回答した。五島久社長は「そのうち足元で資金繰り支援が必要になっているとの回答が約600先あり、条件変更も含めて対応している」と語る。20211009銀行・信金・信組・労金


鹿児島県の信金理事長は「1㌦=150円は驚くべき水準。さらに円安が大幅に進むとは考えておらず、年明けには一服すると想定している」と分析したうえで、「ヒアリング強化を検討している。円安の影響があれば、低金利の融資や県の対策融資を案内したい」と話す。


大阪貯蓄信用組合の古知貴惠子理事長は「中小・零細企業へのダメージは大きくなっている。足を運んでface to faceで寄り添うことが大切。訪問する中で(各企業の実情に)見合った制度などを紹介」していく考えを示した。


円安に〝商機〟を見いだす業種も


円安を追い風と捉える業種もある。その一つが、長年、価格の安い輸入材に押されてきた林業だ。数年前から始まったウッドショック(需給のひっ迫による世界的な木材価格上昇)に加え、円安の影響で外国産木材の価格が高騰。その結果、国内産木材の価格競争力が高まっており、需要が増えているという。東北地区の地銀関係者は「林業の生産者組合や流通業者、木材加工業者からの相談もあり、生産設備の増強やトラック購入などの支援は積極的に行っていく」構えだ。


北海道の信金関係者は「当地は農畜産業が盛んな地域。円安で輸入モノとの価格差が縮小してきており、国産モノの需要が拡大するチャンスだと捉える事業者もいる」と強調する。


地域銀と提携して中小企業に貿易ノウハウを提供しているSTANDAGE社(東京都)には地銀から取引先の紹介案件が増えているという。同社は今後、地銀取引先の中小企業向けにセミナーを開くなどマーケティングを強化していく考え。


今回の円安は幅広い業界に波紋を広げている。そのため、多様な業種を取引先に抱える金融機関にはさまざまな相談が寄せられており、負の影響を緩和してプラスの影響を助長する多面的な取り組みが求められている。

すべての記事は有料会員で!
無料会員に登録いただけますと1ヵ⽉間無料で有料会員向け記事がご覧いただけます。

有料会員の申し込み 無料会員でのご登録
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

関連キーワード

為替 取引先支援

おすすめ

アクセスランキング(過去1週間)