【地銀再編】長野県の銀行一本化を識者3氏はどう見たか
2022.10.02 04:40長野県を地盤とする八十二銀行と長野銀行が、9月28日に経営統合に向けて基本合意したと発表した。同一県内の地域銀行の再編を、識者はどう見たのか。地域金融に詳しい播磨谷浩三・立命館大学教授、野崎浩成・東洋大学教授、鮫島豊喜・SBI証券シニアアナリストの3氏に見解を聞いた。
地元信金の経営に影響を及ぼす可能性も
立命館大学・播磨谷 浩三教授
同一地域内に地方銀行と第二地方銀行が併存しているのは決して長野県に限らないが、長野県の両行の場合、地元シェアや地元での存在感の格差が大きく、長野銀が単独で生き残りを図ることは難しかったと考えられる。
また、金融商品の販売関連だけとはいえ、SBIグループとの連携に思うような効果が表れていないという点や、SBIグループの地域銀行との連携構想の展望が明瞭ではないという点も影響していると思われる。
八十二銀の県内メインバンクシェアは2021年の調査でも50%を超えているのに対し、長野銀は10%にも満たないのが実状。長崎県の十八銀行と親和銀行との合併の際に問題となったような、両行の借入企業に与える懸念はそれほど大きくないと考えられる。
他方、シェアをさらに高める八十二銀の存在が、地元信用金庫の経営に影響を及ぼす可能性はあると思われる。ただ、取引先である借入企業にとっては大きな混乱は生じないのではないか。全般的に見て、長崎県や新潟県、青森県などで生じた(生じる)地元競合行間の合併とは異なるので、地元経済では予定調和的に捉えている向きも少なくないと考えられる。
単独での効率化に限界
SBI証券・鮫島 豊喜シニアアナリスト
長野銀は経営効率の改善がうまくいっていない。OHR(経費率)は22年3月期に85%と、上場地銀平均の68%を大きく上回る。マイナス金利政策の導入以降、資金利益が思うように伸ばせず、手数料収入も微々たるものだ。統合によって、八十二銀のノウハウや証券子会社などを活用することで、自らのお客さんへの金融商品提供を強化できる。そういう判断だったのではないか。
八十二銀からすると、地域経済が疲弊すると自らの収益が落ちることになる。地域の企業が稼いだお金が、金利収入や手数料収入になるからだ。それを考えると、二つの銀行が別々ではなく、一つの銀行として金融サービスを提供する方が、効率的に取引先の成長を後押しできる。今後は、八十二銀が力を入れるシンジケートローンや私募債発行、M&A(合併・買収)などの支援が、長野銀の取引先に対しても可能になるだろう。
リソース充実につながる再編
東洋大学・野崎 浩成教授
銀行経営の視点としては、顧客についての知見を共有化できる点が大きい。特に八十二銀は投資専門子会社を立ち上げており、エクイティとデットの両面で盤石な支援ができる体制になっている。そこに長野銀行の顧客情報や人材リソースを投入することで、例えば事業承継や事業再編支援などをより踏み込んで提供できるのではないか。
顧客の視点としては、地域のマーケットで寡占から独占になるということで、金融機関取引の選択肢がなくなることを懸念する声もあると思う。ただ、長野県の場合はしっかりした信金があるほか、場合によっては他県の地銀に取引を求めることも十分可能だろう。
経営資源を集中することで、効率化だけでなく、支援スキルや情報的なリソースを充実させるという意味では、このような地域内の再編は一番望ましい再編と言える。成功事例になることを期待したい。