【推薦図書】『気候変動の真実』
2022.09.30 04:45
【推薦者】野村証券専務 鳥海 智絵さん
〝Unsettled〟の意味するもの
本書はカリフォルニア工科大学の理論物理学教授やオバマ政権下のエネルギー省科学担当次官などを歴任したクーニン博士が、科学者の立場から「温暖化の科学は『決着していない(unsettled)』」と論じているものである。
曰く、国連や米国の報告書は科学的知見を歪めて報告している。「気候」と「気象」は異なるものであり、多くの場合、異常気象と気候変動の関連性は科学的に明確ではない。人が生み出す二酸化炭素は温暖化に影響しているが、その影響度合いを論証することは極めて難しい。モデルやシナリオには大きな不確かさがあり、パラメータによって予測の幅は大きく変わる。これら、科学的に不確実な要素は、メディア・研究機関・NGO・政治家などそれぞれの視点や利害が一致することによって、シンプルなメッセージに集約されていく。
著者は「気候危機説への懐疑」を煽るわけではなく、科学者としての矜持をもって警鐘を鳴らしている。
金融機関として、グローバルなネットゼロへの取り組みにコミットする中で、迷うことも少なくない。そうした中、さまざまな状況の変化に柔軟な対応をとれるよう、常に視野を広げる必要性を教えてくれる良書ではないかと思う。
(日経BP、税込み2420円)