【Discovery 専門家に聞く】自分自身でキャリアを描く

2022.09.30 04:45
人材育成 インタビュー Discovery
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プロティアン・キャリア協会 有山代表

「プロティアン・キャリア」は、1976年に米国のダグラス・ホール教授が提唱したキャリア理論だ。それを発展させた現代版の普及を目指す一般社団法人プロティアン・キャリア協会の有山徹代表理事に、組織と個人が良好な関係を築くための取り組みを聞いた。


これからは、組織がキャリアの主導権を握る「組織内キャリア」ではなく、個人が主導権を握る「自律的キャリア形成」という考え方が必要になってくる。そのシフトが進めば、企業は生産性を上げることができ、個人は心理的な幸福感を伴って生きることができる。プロティアンの意味は「変幻自在」。当協会はワークショップや1on1、eラーニングなどの研修を通じて、心理的幸福感を感じながら自分の軸を持って変幻自在に生きる人を増やす取り組みを多くの企業に提供している。


米国では個人を軸にキャリアを考えるのが当たり前だが、日本では組織にキャリアを預けてしまう方がまだ多いと感じている。当協会では、過去だけではなく未来、個人だけではなく社会・組織・家族などとの関係性を含めたものがキャリアであると定義し、最先端のキャリアの考え方を広めている。


組織との関係性に悩む人は多い。日本は国際比較で、企業と社員の関係性を意味する「エンゲージメント」が低い。かといって起業や転職を希望するわけでもなく、自分の意思を持たずに、そこに居続けているという方も少なくないことがデータで明らかになっている。


企業側にも、所属する組織への帰属意識を意味する「組織コミットメント」を美徳と捉える風潮が残る。だが、それでは優秀な人材を採れない時代になっている。特に、今の若い人たちはキャリア教育を受けてきており、価値観も異なるので、既に優秀な人ほど旧来型の会社は選ばれなくなっている。


そのことに経営陣が危機感をもち、キャリア自律を覚悟をもって進めることができるかどうか。つまり、まず社員のマインドセット(習性として根付いた考え方)を変えるためのキャリア教育に踏み出せるかどうか。その分かれ目が、将来の企業の競争力を左右する。なぜなら自分のキャリアの可能性を拡げられる会社に優秀な人材が集まる時代だからだ。


従業員の自律行動を促すキーポイントは上司だ。従業員が新しい仕事や勉強に挑戦しようとしても、「会社から言われたことだけやればいい」という上司では、部下のやる気に水を差してしまう。そのため、当協会の管理職向け研修では、メンバーのキャリア支援がなぜ必要性かを理解してもらうことを重視し、そこを腹落ちさせたうえで具体的なコミュニケーションの方法論に進む。


次の段階で重要となるのは、こう生きたいというメンバーの希望と、組織のパーパス(目的・存在意義)をひもづけて、行動変容を促すことだ。例えば、「君が目指すキャリアにとって、今の仕事にはこういうプラス面があるよ」「実現したい将来のために、こういう仕事もやった方がいいかもしれない。挑戦してみたら」という声かけがそれに当たる。企業が目指す社会貢献の形と、社員のより良く生きたい、顧客を喜ばせたいという気持ちをつなぎ合わせて言語化を支援することでメンバーの主体性を応援する働きかけが大事だ。


従業員が「転職しなくても自分がやりたいことをここで実現できる」「会社が自分のキャリアを応援してくれている」と感じるようになれば、エンゲージメントが上がり離職率は下がる。さらに、エンゲージメントが上がると業績が上がるという相関関係も統計上明確である。働く人と企業の双方にとって自律型キャリアに移行するメリットは大きく、自律的キャリア形成こそが人的資本最大化の最大のポイントといえる。

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